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初めて君と
(氷浦/無名様リク)


「水族館に行かないか。」

私の彼氏、氷浦貴利名からそう提案されたのは一昨日の事だった。伊那国島という離島から遥々この地にやってきた彼とその友人たちはこの辺のことなど全くと言っていいほど知らなかった。それに特に俗世間のことには疎い貴利名だったから彼と付き合い始めてからというものデートの場所などは全部私が決めていた。そんな彼からの提案は驚きでもあり、嬉しくもあった。どうやら彼の育った島には水族館が無かったらしく一度行ってみたいらしい。
貴利名の提案を私は二つ返事で承諾し、そして今日水族館へとやってきた。入り口には顔をはめて記念撮影をするプレートが立っていてそこには“ようこそ!”という文字と水族館の名前が書かれていた。そんなプレートを通り過ぎ入り口へ入ると涼しいクーラーの風が私たちを迎えてくれた。

「ちょっとまってて。」

そういうと貴利名は受付に行き暫くすると戻ってきた。はい、と差し出されたのはチケットでお礼を言いながら受け取り見てみるとペンギンの写真がプリントされていた。

「ペンギンを見てると星章の必殺技を思い出すね。あのオーバーペンギンなんちゃら的なの。」
「オーバーヘッドペンギンだろ。でもなんでペンギンなんだろうな。」
「確かになんでペンギンなんだろうね。」

そんな永遠の謎であるペンギンについての話を交わしながら私たちは暗い空間へと足を踏み入れた。暫く歩くと両サイドに小さな水槽が現れた。中には厳つい蟹や面白い模様をしたエイなどが居て1つ1つの水槽を興味深そうに見つめる貴利名にそういえば初めてだっけと思い出した。よっぽど夢中らしく魚の動きと共に目を動かせる姿が微笑ましくて私も貴利名と一緒に水槽を見つめた。こんなに水族館を堪能するころなんて滅多に無いなと思いながらゆっくりなペースで先へ進んでいると小さな水槽の中でも一際目を惹く水槽が現れた。それは熱帯魚の水槽で黄色や緑、乳白色といったまるで生き物のような珊瑚礁と共に派手な色彩をした熱帯魚たちが自由に泳いでいる。


「これが熱帯魚...。」
「見るの初めて?」
「あぁ。テレビでは見たことあるけど実際見るとまた違うな。」
「そうだね。」

貴利名の言う通り照らされた淡い照明の当たり具合によって色や顔を微かに変えていく姿はテレビじゃ決して味わえない。瞬きしていてる間にも表情を変えていく水槽に目を離せないでいると「名前...!」と貴利名が少し興奮したような声音で私を呼んだ。

「どうしたの?」
「ニモが...ニモがいるぞ。」
「ニモ?」

少し目を輝かせている貴利名が見つめる先を見てみると珊瑚礁の隙間からひょっこりとカクレクマノミが姿を見せた。それを指差して再び「ニモ...!」と言った貴利名にあぁ、なるほどね。と頷いた。

「ニモって映画での名前なんだよ。」
「ニモが正式な名前じゃないのか?」
「うん。この子はカクレクマノミって言うんだよ。」
「なるほど...カクレクマノミか。」

私の言葉になるほどと貴利名は顎に手を当ててうんうんと頷いた。よく貴利名はクールだとか言われているけれどこういう風に天然を発揮するし表情も案外コロコロ変わる。大袈裟に変わるわけじゃないから分かりにくいけれど小さいながらも細かく表情を変えていく姿は見ていてとても面白い。そんな思いが顔出ていたのか貴利名に「なんで笑ってるんだ?」と訊ねられてしまった。


「いや、貴利名がかわいいなって思って。」
「かわいいって俺は男だぞ?名前の方がよっぽどかわいいと思うけどな。」
「......。」

こうやって天然なのか計算なのか...おそらく前者だと思うけどサラッと予期せぬ爆弾を平然な顔して落とすんだから。しかも巷で有名な氷の微笑まで加えて来るから心臓が保たない。唐突な発言になんて返せばいいかと考えるけれど心臓がうるさいせいかうまい返しが思いつかずとりあえず恥ずかしさを紛らわせるために貴利名の背中を押して先へと進むことにした。
そうやって背中を押して進むと小さな水槽は姿を消して大きな水槽が現れた。大きな水槽には大きな鮫から亀、そして小さなイワシなどが同じ水槽で縦横無尽に泳いでいる。その圧巻な風景を静かに眺めていた私とは対照的に貴利名は心配そうに水槽を眺めている。

「どうかした?」
「こんな小さな魚が鮫と...食べられないか心配だ。」
「いや、食べられないから一緒に入れてるんでしょ。」

貴利名のまたもや天然っぷりを発揮した発言にツッコミを入れた次の瞬間、彼方此方を泳いでいたイワシが突如同じ方向へ向かって泳ぎだしてぐるぐると大きな渦を作り出した。木戸川に行ってしまった豪炎寺先輩の必殺技、ファイアトルネードならぬイワシトルネードが目に前で繰り広げられている姿をほぉーと見ていると「これなら鮫にも負けないな。」と貴利名が1人納得する声が聞こえてきた。だから食べられないってばと心の中で突っ込み暫くイワシトルネードを見た後先へと進んだ。進んだ先ではペンギンの餌やりやシャチの水槽、ヒトデやナマコを直で触れるなどなどバラエティに富んだコーナーが沢山あって2人で様々なコーナーを満喫した。


「うー...ナマコとヒトデの感触残ってる...。」
「俺はよく触ってたから全然平気だけどな。」
「さすが島育ち...。」

一通りのコーナーを満喫した私たちは水族館の中のイートインコーナーに居た。水族館名物らしい水色のかき氷を食べながら他愛の無い会話を交わす。ラムネ味のシロップに練乳という組み合わせは以外とマッチしていて今まで視覚や聴覚といった身体全部で涼を感じたにも関わらず口が進んだ。

「っ..いた...」

でも少しペースを上げて食べていたせいでズキっと頭が痛んでしまった。おでこを押さえて痛みを堪えていると横に座る貴利名があははと笑った。何笑ってるんだとジトっと見るとスッと貴利名の手がこちらへ伸びてきた。そしてその手は私の頭に優しく往来する。

「そんな急がなくてもかき氷は逃げないぞ。」
「わっわかってる...。」

頭を撫でながら優しい眼差しを送ってくる貴利名に頬に熱が集まる。せっかく涼しくなったのに...!なんて心の中で思うけれど優しい手の感触は決して嫌ではない。なので痛みが引いて再びかき氷を食べ始めてもなお何が楽しいのか私の頭を撫で続ける貴利名にされるがままになってゆっくりとかき氷を咀嚼した。
食べ終わった後は再び館内を歩き綺麗にライトアップされたクラゲを見たりトンネル型の水槽を歩いたりした。上を通る魚たちに夢中になるがあまり首を痛めた貴利名を笑いながらトンネルを抜け暫く歩くとお土産コーナーが姿をみせた。お土産コーナーがあるってことはもうお終いかと名残惜しさを感じたけれどデフォルメされたペンギンやアザラシの人形やストラップに胸を打たれて名残惜しさは一瞬で飛んで行った。私は貴利名をそっちのけでお土産コーナーを1人物色する。


「やっぱ雛ペンギンのストラップかな...!」

店内を物色しながら特に気に入った雛ペンギンのストラップを手に取る。つぶらな黒い瞳が「買って買って!」と私に向かって訴えかけている。うぅ..!こんなに見つめられたら買うしかないじゃん...!

「それ、気に入ったのか。」
「うん!貴利名も何か買うの?個人的には雛ペンギンがオススメだよ。」
「うーん...おっ、いいの見つけた。」

横に立つ貴利名は色んな生き物のキャラが並んだ中へ手を伸ばすと私が推している雛ペンギンとシロクマがセットになったペアのストラップを手に取った。1人でセットを買うなんて案外欲張りなんだなと思っていると貴利名は私の手から雛ペンギンを取り上げて元に戻した。え、なんで?といった視線を貴利名に向けると貴利名は手に持ったストラップをゆらゆらさせて笑った。

「俺はシロクマで名前は雛ペンギン、お揃いにすればいいだろ。」
「おっお揃い....」

おっお揃いだと....!?とまさか貴利名の口からお揃いという言葉が出てくるとはとストラップを注視するとペンギンとシロクマの腹の部分にはハートが描かれていた。雛ペンギンには赤いハートが、そしてシロクマには青いハートが描かれていて顔が少し熱くなる。

「こっこれカップル用じゃん。」
「あぁ、俺たちカップルだしこれでいいだろ?」

サラッとさっきの爆弾発言同様特に表情を変えることなく言ってのけた貴利名に心臓がうるさくなる。そんな私の気持ちなんか知らずに貴利名はお会計してくると1人レジへと行ってしまった。


「はい、名前。」
「あっありがとう....。」

とりあえず貴利名が会計をしている間に深呼吸を繰り消し落ち着きを取り戻すことに成功した私は彼からストラップを受け取った。さっきまで雛ペンギンのつぶらな瞳と目を合わせていたのに今はお腹のハートに目が釘付けである。そういえばお揃いはじめてだな、と考えるとなんだか恥ずかしくも嬉しくもあって自然と頬が緩む。

「...喜んでくれてるようで良かった。」
「だってお揃い初めてなんだもん。」
「俺も名前が初めてだよ。」

ふりふりと眼前でシロクマを揺らしながら貴利名は言った。名前が初めてだよ、って言い方がちょっとなあ...と照れていると「初めてが名前でよかった。」と純度100%の笑顔を向けられて顔が真っ赤になったのは言うまでもない。


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無名様
この度はリクエストありがとうございました! 消化が遅くなってしまい申し訳無かったです!もう随分水族館へは足を運んで居ないので色々おかしい部分があるかもですが楽しんでいただけたでしょうか。少し氷浦くんを天然にしすぎたかなと反省しております...あはは...今年は暑さが厳しいのでこれを読んで少しでも涼しい気分になっていただけたら幸いでございます。重ねますがこの度はリクエストありがとうございました!今後も当サイトをよろしくお願いします^^