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「円堂守...無名だった雷門を全国優勝校まで押し上げた伝説のキャプテン....!」

パンチパーマくんの発言に円堂守がどういう人物なのかわかりやすく説明してくれたのはキャプテンマークをつけたパッツンロングくんだった。キャプテンってことはあれが道成達巳くんか...。いやーそれにしても髪綺麗だな、キューティクルがイキイキしてるよ。イッキイキしてる。ジーッと彼の髪を見ているとつくしちゃんは円堂くんはたしかにすごい人でしたよー!とハンカチを持って泣き出した。ほんとさっきからどっちが円堂たちのマネージャーだったんだと突っ込みたい状況が続く中私はつくしちゃんがすっかり存在を忘れているだろう荷物に手を伸ばして箱を開ける。


「つくしちゃんこれ配らないと。」
「あっ、そうだった!泣いてる場合じゃない... 皆さん、これよりイレブンバンドをお配りしますね。」
「イレブンバンド?」
「これもサッカー選手に義務付けられた制度の一つなんです。」

不思議そうに箱を覗くみんなに二人で手分けしてイレブンバンドを配っていく。直径2センチくらいの黄色いバンドには濃紺のディスプレイがあって、ディスプレイの端には雷門のロゴが白くプリントされている。

「そのバンドで選手の運動量を測ったり試合中では監督からの指示を受けたりできるんですよ。」
「へぇー」
「過度な練習をやらされていないかとか体調は万全かとかみなさんを守るためでもあるんです。」

マネージャーの風格を見せつつあるつくしちゃんがみんなにイレブンバンドがどういったものなのか、またどういった機能を搭載さているのか一通り説明してくれた。こんな優れた代物中学サッカー界だけで使うなんて勿体ない。日本の社会人全員に装着を義務ずけるべきだ。そうするとブラック企業による違法な時間外労働が無くなる上に自分では気付かない身体の変化、例えば風邪の予兆などをバンドが拾ってくれて身体を酷使することも無くなる。きっと日本の労働の未来は一気に明るくなり道成くんのキューティクル並みにイキイキし始めるはずだ。
珍しくまともな意見が飛びてた頭に偉いねーと褒めてあげているとピロリピロリとイレブンバンドから機械音が鳴った。この音は確か監督からの集合の合図だ。屋内スタジアムに向かおう、とみんなに声をかけて私とつくしちゃんを先頭にスタジアムに向かっていく。

スタジアムに入ると監督がコーチの前でさっきのようなクンフーの型を見せていてそれを見つめるコーチ。一体どういうシチュエーションなんだ。もしやコーチも趙金雲師匠のクンフー教室に仲間入りかなんて考えながら新部員を引き連れ二人の方へ近づくと監督は型を続けながらこちらを向いた。おお、来ましたね、と型をやめてみんなに向き合った監督にみんなは一列に整列し、私とつくしちゃんは監督の隣へ立った。


「11人全員揃いました。」
「よろしい。では初日ですが早速練習ですよ。」

みなさん覚悟はよろしいですか。という監督の言葉にみんなは元気よくはい!と返す。一体この中国人監督が組んだメニューはどんなものなんだろうか、興味が唆られて一列に並んで監督からの言葉を緊張の面持ちで待つみんなのように私も監督からの言葉を待った。

「では一週間後の試合に向けた練習プランを説明しまーす。」

緊張しているみんなとは対照的な軽い感じで監督は言うとコーチからタブレットを取って練習メニューを発表した。そして遂に練習メニューが読み上げられたけどその内容に私を含めた目の前のみんなの目が点になった。なんと本日1日目の練習メニューは河川敷を走る川沿いコース100往復のみ。しかも2日目から5日目までも全て坂の上り下りやゴミ拾いといった所謂基礎体力を上昇させる練習内容だった。そして6日目は休憩。とても全国ランク1位のチームとの試合に向けた練習内容じゃない。

「では皆さん島から出てきて水が合わずつらいと思いますが早くこの街に慣れてくださいね。」

はい、ミーティングは終わり。練習メニューに驚きを隠せないみんなを置いて監督は去っていこうとする。それをパンチパーマくんが待ってくれよ。と焦った様子で止める。

「俺たちは勝つための特訓をしたいんだ。必殺技とかそういうのを頼む。」
「うーん、そんなに焦らなくてもいいでしょう。」
「だからこっちは次の試合に勝たなきゃサッカーができなくなるんだよ。」
「うぅーん、なるほど。」

必死なパンチパーマくんに対して監督は間延びした返事を繰り返す。というかサッカーができなくなるってどういうことだろう。まあ今はその事情よりも目の前で起きている対立の方が問題だ。円堂たちの特訓を見てきたから分かるけど必殺技は一朝一夕で身につくものではないからパンチパーマくんの意見を擁護はできないが監督が呑気すぎるのは如何なものかと思う。そうこう考えていると監督はクルリと振り返った。

「ではお聞きしますがこれからサッカーを続けていくためにあなた方がすべきことはなんだと思いますか。」
「え..それはやっぱり練習です。」
「それでぇ?」
「練習をやりまくって星章学園をぶっ倒す!」
「それでぇ〜?」
「スポンサーがついてサッカーが続けられるようになります。」

監督の突然のクエスチョンにみんなは戸惑いながらも答えていく。練習、打倒星章、そしてスポンサー獲得と監督に向かって口々に言うメンバーたち。雷門スポンサー居なかったんだというか居ないのにどうやって参加権ゲットしたんだとそこら辺の事情もさっきの事とまとめて気になるところだが後で聞くことにしよう。みんなの答えはどうやら正解ではないらしく監督は一向に首を縦に振らない。


「チクタクチクタクブッブー!」

ピッピッピと監督の手にあるスマホのタイマーがカウントダウンをはじめ0を刻むと監督はタイマーの音に被せて茶化した様子で言った。タイマーを見ながら触覚くんは何でですか!と眉を下げて声を上げる。そんな姿に監督はサッカーを続けていく方法...と神妙な語り口で言う。ごくん、みんなが生唾を飲む音が聞こえてきそうな状況のなか答えを待っていると監督は打って変わって茶目っ気いっぱいな表情とジェスチャーでそれはズバリ、負けないことですね!と言い放った。私を含め正解を待っていたメンバーはズルッとその場にずっこけた。吉本新喜劇ならぬ雷門新喜劇だ。今年の文化祭これで行こうかな、なんて呑気なことを考え出した私と違いパンチパーマくんは、この太っちょ!人をおちょくってやがる!と額に青筋を立てて今にも殴りに行きそうな勢いである。そんなパンチパーマくんを抑える触覚くんと忍者くんと外ハネベレー帽くん。おいおい、そこは道成くんやキャップ帽くんや巨体くんが止めに行こうよ。なんで比較的小さな子たちに行かせたし。


「フォーフォッフォ、言っておきますが私の練習指示は絶対ですよ。サボったらそのイレブンバンドですぐにわかりますからねっ!フォーフォッフォ!...あっそれと言い忘れてましたがバンドが故障などを起こして正常なデータが送られてこないってこともありえますのであなた方の特訓には見張りをつけますねぇ。」
「見張り?」

監督の発言の見張りという単語を不思議そうな顔で繰り返した水色髪の少年。見張りか...。たしかに小さな機械の割には沢山の機能が搭載されているから初期不良や故障が起こる可能性はありえる。意外と抜け目ない監督に感心していると監督がこちらを向いた。え?なんですかいきなり。

「ということでユカくん。校門に自転車があるのでよろしくたのみましたよ。」
「だってさユカくん...って、えっ!私!?」
「はい、君です。自転車をお貸ししますのでキッチリ練習が終わるまでみんなのことを追いかけてくださいねっ。」

まさか自分だとは思わずだってさユカくんなんて言ったがこの場にユカという名を持った人間は私しかいない。にっこり微笑みながら語尾にハートがつきそうな勢いで言った監督に豆鉄砲を食らった鳩のようになった。いや待って、まさかの私? いくら自転車でも往復100回を追いかけるなんて普通に辛いんだけど。誰か助けてくれとコーチに視線を送ったけどガン無視された。さてはさっき私が意地悪言ったお返しだな、倍返するぞ!...いや嘘です。全発言撤回後謝罪するんで助けてください。見張りなんてあなたは選手を信用していないんですか!って監督に言ってやってください。しかし必死な私の視線の一切を無視するコーチは監督の指示に苦言を呈する事はなかった。
こうして私のチャリで往復100回!青春の河川敷コース!へ赴くことが確定した。ちょっと元気っ子っぽく言ってみたけど全然元気でないや。あはは、とつい漏れた乾いた笑みに対してつくしちゃんは笑顔で頑張ってねとエールを送ってくれた。他意のないその笑顔があまりにも眩しくて私はうん!と元気で答える他なかった。