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あの後、校長室に呼ばれた伊那国の子たちはつくしちゃんが案内することになり、私は先に一人サッカー部の新部室に向かうこととなった。
無駄に広い土地をふんだんに使った新部室は大きく、つくしちゃんはサッカー塔だなんて言っていた。ミーティング室をはじめにシャワー室、ロッカールーム、更に屋内スタジアム。充実しすぎている施設環境にサッカー部に金をかけすぎでは...と他の部活からクレームが来そうだがフットボールフロンティア優勝を機に神格化されたサッカー部を咎める人間はどうやら居ないらしい。埃と汗の匂い、そして熱気が充満していたほったて小屋のような旧部室とは似ても似つかない広くて無機質な匂いがする新部室に未だ慣れない気持ちで歩を進めているとミーティング室へいつのまにか到着していて自動ドアがウィーンと開いた。

「フッ!ハッ!」

開いた扉の先、そこにいたのは髪を後頭部で三つ編みに編み上げたいかにも中国人といった風貌をした人物だった。今度こそ本物のニーハオ爆買い中国人のお出ましか、と構えたが彼は大きな鞄を持っている訳でもなくフッ、ハッ、と声を出しながらジャ○キーチェンのようなポーズを繰り返し続けている。なんだっけあれ、なんて言うんだっけ。ああいう型をする競技?いや技能?あれなんだっけ。合気道は違うし....。中国人のポーズにジャ○キーチェン姿を重ねながらもうそこまで出かかっている単語の正体について頭を悩ませていると自動ドアの閉まる音で私の存在にやっと気がついたのか、小ぶりな黒目をキョロっと動いてこちらの姿をとらえた。中国人は私の姿に吊り上がった細眉をピクリと動かせておやおやと言った。

「どうもこんにちは。」
「こっこんにちは...」
「もしやマネージャーさんですか?」
「はい、マネージャーを務めます三宅ユカです。」

謎の中国人は若干の訛りがあるものの日本が達者なようだ。私のボディーランゲージを披露するのはまだまだ先になりそうだなんて呑気なことを考えながら中国人の質問に返事をすると中国人はああ、君がそうなんですね。と独特な抑揚をつけて言った。

「元雷門サッカー部のマネージャーさんがマネージャーをしてくれるなんて実に心強い。どうぞ新雷門をたっぷりサポートしてあげてくださいね。それと紹介が遅れましたが私は新監督の趙金雲です。」
「勿論そのつも...って監督!?」

あっさりとなされた自己紹介に驚くと新監督らしい趙金雲(なんか金運めっちゃ良さそうな名前)はフォーフォッフォと愉快に笑った。まあ成人のプロリーグとかになればフランス人監督を雇用していたりするしグローバリゼーションが進む昨今、中学サッカーとはいえ監督が外国人なのに疑問を持つ必要は無いのかもしれない。日本語も達者なので意思疎通ができないだの理由をつけてと解雇されることもなさそうだし。(ハ○ル○ジッ○監督の話はやめろ!)
しかし、彼が新監督なのだとしたら一体響木監督はどこへ行ってしまったんだ。てっきり響木監督が復活するもんだとばかり思っていた。雷雷軒でラーメンを油切りする日々に戻ったのだろうか。今度確認しに行こう。

「どうですか、皆がくるまでクンフーでもしませんか。」

雷雷軒のチャーハンパラパラだし餃子は大きくてニンニクたっぷりで美味しいんだよね、と響木監督のことを考えていたはずがいつの間にか雷雷軒で食べたメニューたちを思い出して心中で舌なめずりをしているとこれまた私並みに呑気な発言をした趙金雲監督。ん、まてよクンフー....?クンフー!そうだクンフーだ!クンフーだったわ。監督の言葉で思い出したわ。
忘れていた単語を思い出したことにより頭の中はスッキリしてついクンフーだ!と叫ぶとフォッフォッフォ、やる気があっていいですね。と監督は嬉しそうに笑った。どうやらクンフーを一緒にやる方向に話が進んでいるらしい。まあ部員もまだ居ないしやってもいっかと監督見るとすでにポーズを決めている。よく見る片足を折り曲げて片手の手のひらをビシッと突き出すポーズ。見よう見真似でやってみるけどスカートを着ている関係上限界があり完璧に真似はできない。

「違います、重心はそこじゃありません。」
「難しい...」
「どうやら重心が右寄りのようですね、もう少し左に寄せてみましょう。」

スカートなのを考慮してくれたのか監督はのポーズに対するダメ出しは無く主に重心の置き方についてあれこれ指摘してくれた。たしかに言われてみれば右足に体重を置いちゃう癖があるななんて思いながら精一杯重心を動かせる。なんだか妙に楽しくなってきてあれこれ色んなポーズを教わってるうちに私は監督を師匠と呼び始めていた。


「もっと腰を落とすんですよ。」
「はいっ師匠!」

サッカー部室で青春クンフー漫画が始まるのではないかといった雰囲気を監督...いや師匠と醸し出していると自動ドアの開く音が響いた。

「ちょっと...何やってるんですか。」

開いたドアの方を見ると先日顔合わせをした亀田コーチが驚いた顔でこちらを見ていた。

「見て分かりませんか、クンフーですよ。」
「コーチも一緒にどうですかな。」
「遠慮します。」

コーチ言葉はまるで氷の刃で熱い熱気を纏った私たちの空気をズバッと切り捨てた。最初から突っ込む気などさらさら無さそうな呆れた表情である。超次元サッカー捨てて少林寺サッカーでもおっぱじめるつもりですか!?ってツッコミくるの待ってたのに...。コーチってノリ悪いんですね、と至極真っ当な反応を示したコーチを逆に責めているとコーチは困った顔をした。こら、大人を困らせるのはやめなさい。と私の良心が語りかけてきたのでそれ以上責めるのはやめにした。コーチの登場と共に振り下ろされた氷の刃に自然とクンフー教室は終わり3人でじっと伊那国の子達が来るのを待った。するとものの数分でみんながやってきてコーチが監督(教室が終わったので師匠呼びは終わり)を紹介した。


「監督が、」
「中国人?」
「身体がでかいでごす。」
「お前もな。」

謎の中国人監督にみんなも困惑した様子な言葉を口に出しているが私はそれより伊那国のメンバーの体格差に驚いていた。さっき一応姿は確認したけどこうやって一列に並んでる姿をみるとその差をありありと確認できた。小さいのだったり、華奢だったりゴツかったりとすごいことになっている。一つの島に住んでいてなんでこんなに体格と頭身に差があるんだとしまんちゅ(あえての沖縄弁)の生態に疑問を抱いてるうちに話は進み監督とコーチは先に本日の練習場所らしい屋内スタジアムへと、選手たちはユニフォームに着替えることになった。
着替えている間につくしちゃんと共に荷物を取りに行き戻るとみんなユニフォームに着替え終わっていた。旧ユニフォームは黄色とコバルトブルーだったけど新ユニフォームはコバルトブルーがライトグリーンになっていた。そして胸にあった雷門という文字はイナズマのロゴになっていてなんだか前よりちょっとお洒落になっていた。

「うう...元の雷門の皆さんが頑張っているのを思い出しちゃいました。」

つくしちゃんはユニフォームを纏ったみんなの姿を見るや否や泣き出してしまった。円堂たちを思い出して泣き出すなんてどっちが旧サッカー部のマネージャーか分かんないななんて思いながら私もみんなの方をじっと見る。やっぱり旧ユニフォームが目に焼き付いているからか少し違和感を感じてしまう。だけどついに雷門サッカー部が始動するんだと実感が湧いて来て心に来るものがあった。つくしちゃんが泣いているのもあってか目頭が熱くなったけど私は上を向いて引っ込めた。


(みんな元気にボール蹴ってんのかな。)

引っ込めようとしているのに浮かんで来るのはサッカーをしているみんなの姿ばっかりでもうそこまで涙がせり上がって来て1人焦っているとつくしちゃんと触覚くんの間で成されている円堂の話題に対してパンチパーマくんが衝撃の言葉を口にした。


「誰だそれ。」

ええええええ!!??彼を除く部員みんなが驚き私も同じく驚いた。でもお陰で涙引っ込んだわ。ファインプレー。いいねのハートをパンチパーマくんに100万個送ってあげたい。