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22

ヘッドノズルだかノズルヘッドだか知らないけどとりあえずシャワーのところから溢れ出る冷水が弾ける音が私と、そして水神矢くんの間に響き渡る。いやぁそれにしても頭から身体までびちょびちょだわ。あの中国人の件といい水難の相出てるのかしら今度神社でも行かなきゃなんて受け入れ難い現実から逃れるべく全く関係ないのないことを考えていると水神矢くんが私の方へ近づいてきてすぐ目の前でしゃがんだ。そして私の腕をゆっくりと引いて立ち上がらせてくれた。


「詳しい話は後で伺います。とりあえずここを出ましょう。」
「はっはい....」

あれなんで水神矢くん急に敬語なんだろう、そんな疑問を抱く暇なくハンドルを回して水を止めた水神矢くんは個室から出て私の紙袋を手に取ると足早に部屋を出て暫く歩いた先にある部屋へと私を招き入れたのち水神矢くん自身も部屋の中へと入ってきた。招かれた部屋はタオルやボトル、予備のユニフォームや新品ボールなどが置かれた所謂備品室で私もさっき休憩時の渡すタオルなどを調達した所だった。

「どうぞ。」
「ありがとうございます...」

水神矢くんに差し出されたタオルはきっと身体の水気を取れと言うことだろうなと思ってタオルを受け取り私は髪や身体などを拭いて行く。いやぁそれにしても結構服や髪水を吸い込んじゃってるな〜と押さえるようにして水分をタオルに含ませて行く。

「...拭いている最中で申し訳ないんですが単刀直入に聞きます。何故あなたが星章学園にいるんですか、......三宅ユカさん。」


ピタリ、と水神矢くんの言葉に私はタオルで髪をプレスしようとしていた手を止めた、というより手が勝手に止また。

「えっと...三宅ユカってどちら様でしょうか?」

手を止めた時点でどう考えても思い当たる節があるだろう反応だしおまけに自身の名前を聞いた瞬間目をかっ開いて水神矢くんを見てしまったから怪しさマックスだろうけど頭に“不法侵入”、“逮捕”、“火来謝罪会見”、“スポンサー取り止め”等のパワーワードが浮かび私は惚けることにした。火来謝罪会見はどうでもいいしなんなら私個人に向けての扱いについていつでも謝罪会見及び美味しいクッキーを買ってきて詫びろ!って感じだけどそれ以外は是が非でも避けないと行けない......!とヘラっと笑って水神矢くんに返した。

「誤魔化さないで下さい。雷門中学サッカー部マネージャーの三宅ユカさんですよね?」
「ぞっ存じてあげない方ですね....私は毛蘭々なので...。」
「ではクラス及び出席番号を今すぐここで言って下さい。」
「いっ1年...びっB組で出席番号にっ25番です!」

ぶっちゃけクラスの数もその数を表す表記が1年1組みたいな数字表記なのかはたまた口に出したアルファベット表記なのかなんにも分からないけど一か八かだ!と問い詰めてくる水神矢くんに勢いで言って彼の返事を待つ。ばくばくとうるさい心臓に頼むから落ち着いてくれ、君が頑張るのは今じゃないでしょ!と某先生の決め台詞と真反対の言葉を繰り返し唱える。

「...うちの学園にそのようなクラスは存在していません。」
「うっえっあっああ!!思い出しました!私のクラス1年2組でした!やだなぁ〜水かぶってちょっと混乱状態に陥ってましたあはははは!!」
「うちの学園は各クラスの表記を星座にしています。よってアルファベットでも数字でもありません。因みに俺はこぐま組です。」
「あぁっと!思い出した記憶を深掘りしてついに真実の記憶にたどり着きました!実は私もこぐま組なんですよ〜!やだ私とお揃いじゃないですか水神矢先輩〜!」
「....というのは嘘で数字で表記しています。」
「うんっ!正直な話疑ってた!こぐま?なんだそれ幼稚園のクラス名か?年長さんはおおぐまになるのか?強豪校のイメージ丸潰れだけどそれでいいのか星章学園!?って疑いまくってたんだよ実は!」

水神矢くんの華麗な話術に踊らされてしまった私は“もういい毛、君はよく頑張った。後はこの私三宅ユカに任せるんだ。”と健気な年下の肩を叩いて退場させてあげることにした。

「...やっと認めてくれましたね、三宅ユカさん。」
「はい......おっしゃる通り私が三宅ユカです。はじめまして、水神矢成龍くん。」

“じゃあね、またいつか会おうね......ヤンヤンちゃん。ってお前も間違えるのかよ!”っと気休めに1人コントを心の中で展開してみるけど何も気が休まらない。
さてこの危機的状況をどう打破しようか、とりあえず土下座しまくって渋らたら火来を召喚しようか、無駄に地位だけは高い火来と小娘の私の謝罪でどうにか許してもらえないだろうか。

「はじめまして、か....」
「えっ!?あっ!いっ今何か!?」
「あっいえ!それより三宅さんの方が年上なんですから敬語はやめてください。それにそんなに緊張しなくて大丈夫です。」

一言一句相手の言葉を聞き逃してはいけないシチュエーションで水神矢くんの言葉を聞き逃しただけでも罪深いのに目の前の彼はそんなの気にしてない様子でさらに優しい笑顔を浮かべて侵入者にかける言葉とは到底思えない言葉をかけてくれた。いやまじで水神矢くん熾天使すぎて別の意味で土下座したくなってきた......ごめんなさい土下座じゃなくてありがとうございますと崇拝の意を込めて土下座したくなってきちゃったよ。

「ありがとうね水神矢くん...ああやばい涙出ちゃう....」
「えっ!?そっそんな泣かせるつもりは無かったんですが!?」

私の言葉にオドオドと焦り出し新品のタオルを5枚ほど差し出して来た水神矢くんの姿に私の中でまた一つ水神矢くんの株が上がった。既にカンストしてる彼への好感度だけどメーターを吹っ切れてうなぎ登りである。

その後私は身体を拭きながら水神矢くんの質問に答えた。質問の内容はなぜ今日私が星章学園に居るのかといった節の内容でもう隠しても仕方ないだろうと私は他言しないよう念を押して鬼道からの依頼で春菜ちゃんの代わりにマネージャーの仕事をするための星章学園にやって来たのだと素直に話した。

「...なるほど、そうだったんですね。」
「うんうん、けっっっっっしてスパイやったろ!って潜入した訳じゃないし今日見た練習とかそういったものは一切口外しないって誓うから安心してね。」
「そんなの全然心配してませんよ。三宅さんがそんな人じゃないとわかった上で鬼道さんもこうやって星章学園に招いたと思いますし。」
「じゃっじゃあ通報とかしないよね.....?」
「もちろんです。さっき久遠監督からも承諾が降りていたと話していたので通報なんてするはずないです。」
「はあ....よかったぁ....」

無事首の皮一枚繋がった安心感に私は安堵の溜息を吐いた.....のもつかの間で何やからドアの外から話し声が聞こえてきてそれは段々と近くなってくる。

「!三宅さんこっちです!」
「わっ!」

グイっと水神矢くんの腕を引かれて備品の収納された高い棚の陰へと入った次の瞬間、ガチャリとドアが開かれた。


「ほんとありえないよねー?」
「....毛蘭々次会ったら先輩とは何かきっちり指導してやる。」
「ちょっと名前いじっていじめすぎた俺たちも悪いと思うけどね〜」
「確かに佐曽塚の言葉も一理あるよな。」
「一理あるかもだが一応仕事だろう。絶対に許さないぞ毛蘭々....」

聞こえてくる声は早乙女、白鳥、佐曽塚、 折緒で、白鳥の声には毛蘭々に対する怒りが滲んでいるようだけどそれもそのはずで私はさっき散々いびられた仕返しで彼達の分のタオルを準備しなかったのだ。


(まあ怒ったところで私とあんたは今日限りだけどね!)

下らない復讐心を燃やしたせいで今こうやって自分の首を締める自体に陥っているくせに私は強気な姿勢で心の中で白鳥に言ってやった。てか寧ろタオルを準備しなかった程度の嫌がらせで済んだだけでマシだと思って欲しいくらいなんだけど、と姿は見えないけれどあっかんべーと舌をだして挑発しているうちにタオルを調達し終えたらしい4人は「明日また毛蘭々ちゃんの名前ネタやろうね〜」「とっておきのを準備してやる....」「だなぁ〜バリエーション練らないとな〜。」「ペンペンとかどうだ?」「なにそれペンペングサ?」と引き続き毛蘭々の話をしながらドアを閉めて去っていった。なんだよあんたたち毛蘭々ちゃん大好きかよ、と思いながら次第に遠くなっていく声にそろそろ戻ってもいいかと思っていると「ハア...」と耳に溜息がかかってビクッと肩が揺れる。


「やっと行ったか....」

耳のすぐ横で呟かれる声は水神矢くんのもので、水神矢くんに腕を引かれるがままについていったから気付いて無かったけれどどうやら私の後ろのかなり近い距離に水神矢くんがいるようだ。人2人入るには狭いスペースなのか水神矢くんの両腕は私の目の前にある棚についていておそらく前のめりの姿勢になっている。なるほどだから声が擽ったいなと思うくらい近かったのか、と納得した私はきっと姿勢が辛いだろう水神矢くんに離れるようにと言おうと振り返る。

「!!?」
「えっと水神矢く....」
「えっあっ!すっすみません!今離れるので!!」

すぐ目の前で立派な下睫毛をこさえた目と彼に比べたらかなり貧相な下睫毛をしているだろう私の目が合った途端に水神矢くんの瞳が大きく見開かれ彼は焦りながら早急に私の元を離れた。窮屈なスペースで無理してもらってたしいい加減しんどかったんだろうなぁ...ほんとうに今日一日水神矢くんには申し訳ないばかりである。