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21

練習時間が終わりに近づいているころ、私は1人裏門に向かって歩いていた。何故今日一日身分どころか年齢から国籍までも偽って星章学園サッカー部のマネージャー(仮)をしている私が選手を放っておいて裏門に向かっているかというと鬼道に練習終わりに私が選手たちに絡まれたり一緒に下校することになると色々厄介だから選手よりも先に星章学園を出ておけとの命令があったからである。


「...で、今日わざわざ星章学園の生徒を装うだけじゃなく一年生であることを強要して中国人演じさせた私にお礼の一つや二つあってもいいよね鬼道。」
「中国人設定を追加して首を絞めたのはお前自身だろ。まあでも今日は世話になったからお礼は紙袋に入れておいたぞ。」
「その言葉を待ってました!」
「...全くお前は現金な奴だな。」

グランドを去る前話を交わした鬼道に呆れられはしたけどお礼は紙袋にという言葉にルンルン気分でミーティングルームで作業している春奈ちゃんから紙袋を受け取った。そして中を見ると綺麗に畳み直された雷門の制服と指定の鞄、そしてなんとチョコが入っていた。しかも私のお小遣いじゃ到底買えないものが入っていてついその場でチョコを掲げて喜んでいると春奈ちゃんに笑われ更にちょうど掲げている時に部屋に入って来た久遠監督には凝視された。きっとなんだあのアホはとか思われたに違いない。ちょっぴり恥ずかしいなと思いながら紙袋にチョコを丁重に仕舞って春奈ちゃんの「お疲れ様です〜」の言葉に「お疲れ様さま!」と手を振って返してミーティングルームを後にした。去り際扉を開けた時唐突に「今日は色々ご苦労だったな。」と久遠監督に言われて反応が遅れて扉に頭をぶつけた馬鹿がいたらしいけどはて一体誰がそんなヘマを......。

紙袋を胸に抱え裏門へ向かいながらもう変装の必要はないかと三つ編みを解き眼鏡を外してブレザーのポケットへ仕舞う。
それにしてもほんの数時間の滞在だったけどここでの時間はなかなか濃密だったなと1人振り返る。星章学園サッカー部面々のキャラの濃さはもちろんだし奴らへの復讐を密かに誓ったのもあるけど今回こうやって星章に来たから鬼道に打ち明けて問題を解決することができたしそれに全国ランキング1位であれど星章学園だって課題を抱えていつんだと思うとこっちだって負けじと頑張らなきゃと思えてきた。とりあえず明日小僧丸くんとちゃんと話してこれからは気持ちを入れ替えて頑張るぞ!と気持ちを奮い立たせる。


「ちょっとそこのあんた!」
「なっなっなんでしょうか!?」

そんなガッツポーズを作っていた時だった、前方からやってきたおばさまに呼び止められたのは。.....もしやこれは私の正体が??とひやっとする。まっまさかこんな面識の無いおばさまにバレるはず....と思いながら緊張とバレたかもしれない恐怖で心臓をバクバクさせていると「ちょっと頼みごと聞いてくれるかい?」と言われた。なんだ頼み事かとホッとして首を縦に振るとおばさまは「ありがとね。」とお礼を言って言葉を続けた。

「ちょっとシャワー室掃除した時に使った掃除用具をシャワー室に置いてきたままにしちゃってね、私が取りに行きたいのはやまやまなんだけどちょっと急ぎで帰らなきゃいけなくてね....代わりに行ってくれるかい?」
「シャワー室ですか?」
「そうそうサッカー部のシャワー室。」
「ああなんだか世界を救って欲しいと私を呼...」
「シャワー室は真っ直ぐ行った後左、上、右、下、上で掃除用具は裏門玄関の用具室に返してくれればいいからね!じゃあよろしくたのんだよ!」

サッカー部のシャワー室、そのワードを聞いた途端全力で断る体制に入ったのにさすが人生経験豊富なおばさまは早かった、小娘な私の言葉なんて物ともせずファミコンゲームの隠しコマンドのように道順をそして続けて道具の返却場所を早口で言うと足早に去ってしまった。

「.....嘘でしょ。」

練習が終わる時間は刻一刻と迫っているのにもしここで部員に遭遇するヘマとか犯したら鬼道からチョコ取り上げられちゃうよ...それだけは絶対に嫌だとひしっと紙袋を抱く。てか2軍の選手見てないから一概には言えないけど男子だらけのサッカー部のシャワー室にマネージャー(仮)が行っていいの...?普通に事案じゃない?てかもしバレたら私ここの女子生徒に刺されるんじゃない?滅多刺しにされた後吊るし上げ...ってやだ想像しただけで怖い.....。
いやでも例えここの生徒で無いとはいえ引き受けちゃったしな..... と暫くどうしようか葛藤するけどもうここはダッシュで道具をシャワー室から回収してここを去ることにした。なに今日の私は中国人をうまく偽ったり灰崎の弱点を見つけたりとなかなか冴えているしきっと運だって私の味方をしてくれる。そう信じておばさまに言われたコマンド左、上、右、下、上を熟すと無事シャワー室に到着した。案外ファミコンコマンド風道案内でもわかるもんだなと思いながら扉に耳を当ててみるけど物音ひとつない。よし中に人は居ないなと確認を済ませ扉を開けて中へと入る。

「うわー綺麗だな....」

うちのサッカー塔にもシャワー室は存在するけど選手じゃない私は使う機会はおろか見る機会すらなくてシャワー室という存在の珍しさについ感想が口から漏れる。それにしてもさすが星章学園というべきか落ち着きのある色調で統一されていて照明も黄色味を帯びて上品な仕上がりになっている.....ってシャワー室を評価している暇はお前には無いぞ。さっさと用具を回収してここを去らないと...と用具を目で探すけれどそれらしきものが見つからない。これはおばさまもしや個室に置き忘れておられるパターンか。

「めんどくさ....」

思ったことがそのまま口から出て帰りたくなったけどけどもうここまで来たならちゃんと回収作業を全うしようと決めて靴下を脱ぎ、脱いだ靴下を紙袋に仕舞って袋を置くと湿り気を帯びた床へと一歩足を踏み入れた。足の裏に床の妙な冷たさが伝わってくるけど数歩歩くうちに慣れて仕切りの下を腰を曲げて覗きながら中を見ていく。すると一番奥の個室にやっと思しきものを発見した。ふっ、やっと見つけたぞ、かくれんぼはこれで終わりだ!!とバンと仕切りを開けたその時だった、ガチャっとドアノブを捻る音が部屋に響いたのは。これはまずい!と咄嗟に動いた私の身体はシャワー室の仕切りの中へと入っていった。
パタンと仕切りが閉じたタイミングで扉が開く音がしてホッと一息.....ついてる暇はない。くっ...まさかここに来て侵入者に出くわすとは.....!いや侵入者はお前の方な、と一人でボケとツッコミをしてみるけど全然心が休まらないってそりゃそうだよね。心臓をバクバクさせながら一体誰だろう、もうチョコ返上した後何百回でも土下座するから鬼道であってくれ頼む....と祈るけど「なんだこれは...」と聞こえて来た声は今日一日私の心の支えとなってくれた熾天使こと水神矢くんのものだった。うわー....待ってこれ割と一番来て欲しくない人来ちゃった説あるよ。


(どうしよう....まじでどうしよう....)

マネージャー...しかも(仮)がここにいることはきっと彼の目にはおかしく映るはずだしそれに関して水神矢くんに問い詰められると上手く言い逃れできる自信はない。おばさまに頼まれたとゴリ押しすればいけそうではあるけどもしそれで通じなかったら...?シャワー室にマネージャー(仮)が侵入した件について問い詰められとりあえず職員室だと星章学園の先生に突き出されてそこで毛蘭々なんて生徒いないぞ!?と騒ぎになり警察を呼ばれ身元確認の末他校の...しかも雷門の人間ということがバレてそもそもなんで星章に雷門の生徒が....?と鬼道の関与等芋づる式に色んなことがばれて様々な紆余曲折の末とりあえず私は逮捕され最終的に火来の謝罪会見が全国中継されて雷門の信頼が失墜したとアイランド観光がスポンサードを取りやめ....ってやばい、史上最悪のシナリオが出来上がってしまった。
でもあくまでこれは最悪のケースであって水神矢くん熾天使だしきっと笑って...はくれないだろうけど許してくれるはず!怒られたらとりあえず謝り倒す!作戦、謝罪を大事に!を唱えて掃除用具を手にしようと近づいたその時だった、

「わっ...!」

どうやら掃除に使う洗剤が漏れていたらしい、床に広がった洗剤を踏んでしまいつるっと足が滑る。ここにきて三宅選手まさかの転倒です!!!と頭の中で実況が無駄に盛り上がるけど是が非でも転倒だけは避けたい.....!と伸びた手が咄嗟に目の前のものを掴むけど不幸なことにそれはシャワーのハンドルでハンドルが回って頭上に大量の冷水が落ちてくる。しかも結局転倒は結局避けられず掃除用具を巻き込んでそれは大きな音を立てて盛大に転んでしまった。....なに、なんなのこの少女漫画的展開は。ドジっ子主人公属性なんで急に発揮されたの。まさかの憑依?このタイミングでちゃ◯の作品の主人公憑依して来ちゃった感じ?どっかのウォッチの流行りに乗って憑依して来ちゃったのかな...って今じゃない....今は憑依するタイミングじゃなかった.....と自分のヘマを全く架空の存在に押し付けていると「誰かいるのか!?」と叫ぶ水神矢くんの声とこっちらへと近づいてくる足音が聞こえてきて仕切りが開かれた。


「えっ......!?」
「どっどうも水神矢先輩.....」

驚いた様子の水神矢くんにもうこうなったらなるようになれと止むことなく落ちてくる水を浴びながら挨拶をすると水神矢くんの瞳が更に見開かれた。