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その後なされた話を要約するとだ、どうやら春菜ちゃんが風邪でここ数日寝込んでいたようでその間に溜まったサッカー部関係の仕事が膨大になってしまってとりあえずそれを片付けるために一日でいいから誰かにマネージャー業を任せたかったらしい。だけど春菜ちゃんが休んでいる間マネージャー業を代行してくれていた二軍の選手にはこれ以上頼ることはできず、一般生徒に頼もうにもサッカー部のファンの子達が多すぎて誰にも頼むことができなかったようだ。別に1日くらいファンにやらせればいいじゃん、と言うと久遠監督が公私混同になりかねないと今まで膨大な数のマネージャー志願者を尽く落としてきたらしくそんな理由もあって学園にいる生徒にやらせるくらいなら外部の人間を呼んだ方がいいということで鬼道の推薦によって私が選ばれたようだ..........ってなんで私なんだと、もし私が無理だったらどうするつもりだったんだと聞くと「フッ...俺がやっていたかもな。」とかニヒルに笑いながら言いやがったので「じゃあ鬼道がやるってことでファイナルアンサーさようなら決勝リーグで会いましょう。」とミーティングルームを後にしようとしたけど首根っこを掴まれて現在練習場まで引きずられている。今日の鬼道意思疎通できなさすぎて天才ゲームメイカー(笑)って感じだけど大丈夫?あ、今はピッチの絶対指導者(笑)か。


「それと今日は一日1年生の設定だから敬語を忘れるな。」
「え、なんで1年生??」
「3年でマネージャー志願者はおかしいだろう。そしてチームの大部分が2年で構成されているから2年にこんな人間いたかと疑われても困る。だから必然的に1年しか選択肢はないというわけだ。」
「だからってビジュアルとか諸々流石に無理があると思うけど......。」
「案ずるな、困ったら助け舟を出す。」
「不吉だから案ずるな使わないでってば。」

もうこれ絶対助け舟出ないやつ、泥舟で一瞬で沈むやつ。お前も一緒に溺れとけって暗に言われているようなもんだ。頑張れ...しっかりするんだぞ三宅ユカ、今日一日頼れるのは自分だけだ....と言い聞かせているうちに練習場に到着して選手たちは各々ストレッチをしていた。


「みんな集合だ。」

ベンチの前まで一緒に歩くと鬼道が星章の生徒に呼びかけてその一言に選手全員が鬼道の元に駆け寄る。

「あれ?新しいマネージャー?」
「この時期に?」
「久遠監督の面接乗り越えた強者がこの学園にいるんなんて...。」

鬼道の隣に立つ私の存在に続々と気づいた選手たちの視線がビシバシ刺さって来て居心地が悪い。もう今すぐにでも逃げ出したい気分の中とりあえず笑顔を取り繕っていると「マネージャー候補の1年生だ。今日一日のマネージャー業は彼女がやってくれる。」と鬼道が言った。

「え、1年?」
「1年の割には老けてね?」

途端に後ろの方でキツネ目と赤いトゲトゲが話し出して会話が耳に入って来る。キツネ目が折緒冬輝でトゲトゲが佐曽塚瑛士、灰崎と合わせてデスゾーン三兄弟と私は勝手に呼んでいる。失礼なこと言ってくれるな......思いつつ実際1年じゃないし正常な反応とも言えるので怒っていいのかどうなのか微妙な気持ちになっていると「はい。」とボーッとした顔と三白眼が印象的な古都野富夫が手を挙げた。


「どうしたんだ古都野。」
「お名前を知りたいなと思って...」

ふむふむ名前か、ワッツユアネームね、と思っていると鬼道が突然私の方を向いた。あ、これ自分で自己紹介しろってことかなと自然な流れで三宅ユカという自分の名前の1文字目を口に出そうとした瞬間鬼道のゴーグルが、厳密にいうとその奥の瞳が光った。いや、実際に光ったかどうかは知らないけどとりあえず鬼道からの視線がすごい。ここで本名で自己紹介を始めようものなら秒で目からレーザービーム出てきて灰になるくらいの眼力でこっちを見て来る。嘘でしょ今咄嗟にこの場で名前作れってか。前もってそれくらい決めておこう??1年って設定作り上げる上で名前くらい決めておいて...ってかこうなることくらい予測できたよね絶対!と鬼道に対する恨みを展開しながら頭をフル回転させる。もう花子とかで良いけどなんかそれはからかわれそうだしいっそ新◯結衣を名乗ってみるか.....いや比較される...ありとあらゆる要素を比較されてボロクソ言われる....となると一体どうすれば.....と頭を悩ませている私の中で丁度先日監督に勧められて見た映画とその映画を見た日に見たもう一本の映画が突如ミックスされて一つの名前が完成した。(この間2秒)


「.....です。」
「へ?」
「毛蘭々です.....」
「もうらんらん......」

古都野富夫が私の名前を繰り返すとシーンとその場が静まり返った。毛蘭々、監督に勧められて見た中国映画に出ていたヒロインの毛依依とその後に見たみんな大好き劇場版名◯偵コナンのヒロイン毛◯蘭が見事ミックスされて完成した名前だ。.......うんやらかした、これただの中国人。1年設定だけでも胃が痛いのにさらに中国人設定追加とかもうむり胃液吐く。自分で自分の首絞めて死んじゃったのではい解散、今世の活動終了、来世に期待。


「へえ〜うちの学校に中国人いたんだ〜」
「すごいね!留学生??」
「でも中国人の割には日本語流暢だし顔も日本人っぽいね。」
「毛は日本と中国のハーフなんだ。そして生まれ育ちが日本だから日本語の方が上手いらしい。そうなんだろう、毛?」
「そっそうなんですよ〜!日本大好きです〜!!」

何故か突然盛り上がり出した空気の中で何も言えないでいると鬼道が色々適当に言ってくれたのでとりあえず適当に合わせる。なんか「そうなんだろ、毛?」のところで俺一仕事した、みたいな顔でこっち見てきたけど実際遅すぎたからね、助け舟遅すぎたから。出航大幅遅延の返金騒動勃発だよわかってる??

「へえー、じゃあ中国語とか聞いて見たいな〜」
「そうだな、披露してやれ毛。」

そんな鬼道の遅すぎる船にやっと乗れると安心した途端足場を外されてゴロンっとずっこける。もうこれ絶対わざとだ。名前を決めてなかったのも私が困るのを見て楽しみたかっただけだ。なにが「披露してやれ毛。」だ、ふざけてるでしょ。

「えっと...ニーハオ?」
「それくらいなら僕でも知ってるよ。」

とりあえず挨拶の言葉を口にした瞬間小柄で華奢な体つきをした女顔の選手...早乙女聖也がニッコニコした笑顔で言った。なに、知ってるからなに、すごいね〜って言えば良いの?いや違うかもっと高度な言葉話せってことか、ととりあえずなにか映画に出てきたフレーズを思い出せ...思い出すんだ毛蘭々....!

「あっ!已經死了!!」
「今なんて言ったの?」
「皆さんのお手伝いができて光栄です!!って言いました。」
「まじかすげー....」
「ネイティブだ.....」

思い出したフレーズをとりあえず言ってみてハッタリな翻訳をつけるとやっとなんとかなってくれて私はホッと一安心する。因みに今言った言葉の字幕にはもうあんたはもう死んでいると出てきていた。ヒロインである女武闘家が最後に敵に送ったセリフで唯一思い出すことができたフレーズである。どっかで聞いたようなセリフだけどはてさてどこだっけな...とすっとぼけていると「雑談はこれくらいにしてそろそろ練習を始めるぞ。」と鬼道が言って練習メニューを読み上げ始めた。そして鬼道が読み終えると選手たちが鬼道に頭を下げて一斉にグラウンドに向かって散ってゆく。そんな選手が去って静まり返ったベンチには私と鬼道だけが残る。


「....あのさ鬼道。」
「鬼道さんだ毛蘭々。」
「ほんととりあえず練習後一発殴って良いよね。」
「ほお....先輩を殴るとは良い度胸だな。」
「もうやだ今日の鬼道話が通じない。」