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「.......。」
「.......。」

珍妙な輩と見つめ合う...といっても被り物に描かれた目と見つめ合うこと数秒、あんた誰?と正体を聞こうと口を開きかけたその時だった、その中国人もどきは被り物を揺らして「シッ...」と被り物の口に人差し指を当てた。シッ、って何がシッなんだ...と中国人もどきと同じく人差し指を唇に持って行って首を傾けていると首を振り赤ちゃんのおもちゃのカランコロンのような音を奏でながら去って行った。

「......なんだったの。」

まるで狐につままれた気分だ。てかあの装いに雰囲気、絶対監督の息のかかった奴だ。絶対に間違いない。なんならイナズマパン賭けてもいい。間違えてたらプレーンキャラメルチョコレートセットでプレゼントするわ。


「三宅先輩ーー!!」

おのれ趙金雲....!と監督の高笑いする姿を浮かべているとタッタッタと私の方に誰かが駆け寄ってきた。健康的な褐色の肌に金色の髪をした彼の姿は見覚えのある姿で風丸が陸上部の時よく顔を合わせていた後輩の宮坂だ。

「おはよ〜宮坂。」
「おはようございます....ってどうしたんですか!びしゃびしゃじゃないですか!」

私を見た途端にグリーンの目を大きく見開きながら言った宮坂に「あはは...なんか襲われた。」と言うと何やらボソボソと小さな声で呟いた。みずぜ...まで聞こえたけどさっきの水が耳にまで入ってしまったのか上手く聞き取れず「なんて?」と聞いたけどタオルを私に差し出しながら「なんでもないでーす。」と言われてそれ以上訊ねるのはやめた。


「そういえば学年中で話題になってるんですよ、先輩のこと。」

差し出されたタオルでとりあえず頭の水分を吸い込ませていると宮坂はニコニコと笑顔でいった。「...まさかイナッターの事故画像のこと?」と恐る恐る聞くと「たしかにそれも結構話題になってました!」と言われて精神的ダメージを負う。まじで鬼道財閥のなんかすごいなんかであの画像を抹消してくれ、そして人々の記憶からも抹消してくれ、ヘルプミーパッパ...と鬼道のお父ちゃんの顔を思い浮かべていると「もちろんそれだけじゃないですけどね。」と宮坂は続けた。

「新しい伊那国雷門のマネージャーに風丸さんや円堂さんたちのマネージャーが就くなんて前代未聞だ!ってみんな騒いでますよ。あっ!後三宅先輩の実態を知らない人の中には伊那国が羨ましいと言っていたりしてました!」
「なにその私の実態って。なんかバカにされてる気がするんだけど。」
「まさか!僕は先輩のこと尊敬してますよ。」

ニコニコとキラキラな笑顔を浮かべながら返した宮坂の後輩属性に恐れを感じつつも、くっ...かわいいじゃないか!と結局かわいいが勝ってしまい「全く調子いいんだから!」と宮坂の頭をわしゃわしゃするとする。すると「ちょっと三宅先輩やめてくださいよ〜!」と口では抵抗しながらもされるがままになってくれる宮坂。なんだか子犬とじゃれあってるみたいだとわしゃわしゃタイムに興じる。


「...でも実際のところどうなんですか、」
「え?」
「複雑じゃないですか?新生雷門のマネージャーをするの。」

宮坂の言葉に手の動きが止まる。宮坂は私の方を見ていて目には少し力がこもり笑顔が一転真剣な眼差しで私の方を見つめている。

「円堂さんたちがいた場所に見ず知らずのチームがやってきて雷門を名乗ることに不満を持つ人がいたり認めないと躍起になっている人がいたり.....そして今現在三宅先輩が伊那国雷門のマネージャーとしていることに納得していない人もいます。裏切りだとか何を考えているんだとかひどいことを言う人もいます。」
「...うん」

確かに円堂たちを雷門だと思っている多数の中には円堂たちのマネージャーであった私が何故伊那国のマネージャーをやっているのかと不信感、そして宮坂が言っている通り裏切りを感じている人がいるようだ。実際そういった話をしている声だってトイレや購買で聞いたりした。

「そういう話を聞くたびに先輩のことが浮かんでずっと気になっていたんです。...三宅先輩、今の雷門サッカー部にマネージャーとして身を置くの、大変じゃないですか?」

そんな声を聞いて後輩宮坂は私のことを心配してくれていたみたいだ。確かに最初はそんな声を聞くたび心が痛んだし悲しい気持ちにもなった。特に伊那国のみんなが雷門にくるまでの準備期間は果たして新しいメンバーはしっかりと雷門サッカー部を受け継いせくれるのか、そして私はちゃんとそのメンバーたちと接することが出来るだろうか、といったプレッシャーも相まって不安という感情がむき出しになっていて、そんなむき出しの心にその言葉たちがダイレクトに刺さってきた。


「......心配してくれてありがとう。でも私はこれからもみんなのマネージャーを全力でやっていくつもりだよ。」

だけどみんなが、伊那国のみんなが雷門に来てからは刺さることが減っていった。熱気とやる気に溢れたみんなの姿に心救われ、そしてみんなのことを知っていく過程の中でそんな言葉たちが段々と耳に入らないようになった。もっとみんなのことを知ってみんながサッカーを続ける姿をこれからも見守って行きたい、そう考えていくうちに不安も自然と消えていった。それに一緒にマネージャーとして頑張ってくれるつくしちゃんだっている。


「大変だって気持ちよりみんなといる時のワクワクな気持ちが勝っているんだもん。...それに心配してくれる心優しい後輩もいることだし私はこれからも頑張れるよ。」

私の言葉に宮坂は「三宅先輩....」と呟いた。そんな宮坂ににっと笑って見せると宮坂は数回瞬きをした後にニッコリと笑顔を浮かべてコクリと頷いた。


「...じゃあ僕そろそろ行かなきゃんで行きますね。タオルはまた今度返してください。」
「うんわかった!朝練頑張ってね。」
「はい!あっ、タオルのお返しは購買のコーヒー牛乳でいいですからね〜!」

手を振って遠ざかりながらの宮坂のちゃっかりとした発言に「はいはい。」と返事しながら私も同じく手を振った。

そしてその背中が消えた後しばらく目を離してしまっていた氷浦くんの方をみると変わらずドボドボとグラウンドを濡らし続けていた。別にあんなホースからの水を垂れ流さなくてもホースの先端掴んでブシャーってすればいいのに。そうすればたくさん動かなくて済むし水を撒く範囲だって広がる。

(...お手伝いは禁止って言われたけどアドバイス禁止とは言われてないもんね。)

“どんな形であれ”と言った監督の言葉が引っかかるけどきっとアドバイスはお手伝いに入らないだろう。それに雑用を早く終わらせて練習に合流させてあげたほうがきっと氷浦くんのためになるし、と私は氷浦くんの方へ向かった。

「氷浦くん。」
「三宅さん...ってなんか濡れてませんか?」
「大丈夫、そのうち乾くから。」

春も過ぎ去って暖かくなってきた今日この頃なのできっと氷浦くんを見ている間に乾いてくれるだろと踏んで敢えて私は制服を着替えないでいる。因みに都合よく下着が透けたりはしていない。安心安全のグレーのインナーを肌着として装備中である。

「最近暖かいですもんね。中庭にいる猫もよく日向ぼっこしているのを見かけます。」
「あ〜あの三毛猫ちゃんね、かわいいよね。」
「しっぽの動きとか可愛くてこの前のりかが写真と動画撮ってました。」
「そうなんだ、のりかちゃんもかわいいもの好きなんだ...って違う!こんな話をしに来たんじゃない...!」

しまった、つい氷浦くんにつられて世間話をしてしまっていた。急にブンブンと頭をふる私の姿に「...ユカさん?」と氷浦くんが不思議そうな顔をしている。

「えっとね私が話したいのは氷浦くんがやっている雑用のことなの。」
「雑用って今やってる水撒きのことですか?」
「うん。」

ようやく話が本題に入り私はとりあえずビシッと氷浦くんが手に持っているホースを指差す。「ホースがどうかしましたか?」と氷浦くんが首を傾げる。

「ただただ水を撒くだけじゃなくてさこのホースの先っちょ....」

そんな氷浦くんに要領よく水を撒く方法を教えてあげようとホースの先端部分を指して説明を始めた....がその説明はさっきと同じ衝撃を再び与えられたせいで続かなかった。


「!ユカさん!!」

バシャっと背中から頭、そしてプラス足元まで満遍なく冷たい衝撃が走る。ポタポタとスカートから落ちて行く水滴の音を耳で拾いながらもしや....とデジャブな展開にゆっくり後ろを振り返るとそこにはやっぱりは妙な被り物をした珍妙な輩が立っていた。