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12

こういった経緯があって早起きする羽目になったという訳である。ちなみに氷浦くんと岩戸くんからのモーニングコールは私が練習終わりに2人に頼んだものだ。万が一、起きれなかった時のための保険に2人にお願いしたものだけどお願いしといてほんと良かった。モーニングコールが無かったら間違いなく現在進行形で夢の中だった。文化祭でもあるまいしチャイナ服で校内歩くなんてまたイナッターに晒されてしまう。そんなの死んでもごめんだ!と林檎ジャムをたっぷり塗ったトーストを齧る。


「〜〜座のあなた!なんと今日の運勢は最下位!」

もぐもぐとトーストを咀嚼していると垂れ流しにしていたテレビから自分の星座の運勢が聞こえてきてピタリと口にトーストを運ぶ手が止まる。

「なんだか揉め事が起きそうな予感!だけど自分を見つめ直す機会になるかも!ラッキーアイテムは年季の入ったゴーグル!じゃあ今日もハッピーな1日を過ごしてねっ!」

揉め事なんて無駄に不吉なことを言われて朝から少しテンションが下がる。しかもラッキーアイテムが年季の入ったゴーグルってなんだ。鬼道から拝借して来いってか。

(馬鹿らしい...)

いちいちこんなの信じててもキリがないというか全国の私と同じ星座を持ちし老若男女に揉め事が降りかかるなんてまず無いというか絶対にない。こんなワイドショーのおまけ程度の占い信じないに越したことはない!と私はトーストを口に運んだ。



「二人ともおはよう!」
「おはようございます!」
「おはようございますでゴス!」

朝食を済ませたあと学校へ向かうと既に氷浦くんと岩戸くんが来ていて二人の元気な挨拶が返ってきた。流石しまんちゅう、私よりはやく到着するとはね。

「それにしてもこんな朝早くから雑用って、」
「なんだか不安でゴス。」

氷浦くんはイレブンバンドを覗き岩戸くんは眉を下げて不安げな表情を浮かべている。確かに昨日はとりあえず監督の言葉に首を縦に振ったけどこんな朝早く成長期真っ只中である私たちの睡眠時間を削り何をやらせるつもりなのか...。
「たしかになにやるんだろうね。」とうんうん頷きながら同調していると「おはようございまーす。」と朝の静寂を切り裂くような監督の声が聞こえて来た。

「岩戸くん、あなたに手伝ってもらうのはこれ。」

登場して早々に監督は岩戸くんへ雑用を言い渡した。「ゴスッ!?」と岩戸くんが驚いいる間に監督が指した指の先をみるとそこには絵がいっぱいいっぱい描かれた学校の塀があってその絵のクオリティが高さに「すご...」とつい感嘆が漏れる。

「どうやら落書きされたみたいでね、これを全部消してもらいますよ。」
「ゴッゴス?!」

落書きというか落書きの域超えてもはや芸術作品じゃんと絵を眺める。けどこの絵の中華感漂ってる感じ....まさかもしかしてもしかしなくても描いたの監督じゃ...と犯人有力候補である監督に視線を向けていると「氷浦くんにユカさんはこっちです。」と学校の中に連れられた。


「では氷浦くんこれをどうぞ。」
「え、これって...」

学校の敷地内に入ってすぐ監督が氷浦くんに渡したもの、それは水やりのホースでそれを不思議そうな顔で受け取った氷浦くんに「この学校の敷地、建物、植物全てに水やりお願いしますね〜。」とさらっとえげつないことを言ってのけた。

「ぜっ全部ですか?」
「はい、余すとこなくぜーんぶっ濡らして来て下さい〜」
「はい...」

パチンと最後にウインクした監督に氷浦くんは困惑の色を濃くしならも返事を返し、その返事を満足そうに聞いた監督はついに私の方を向いた。先に雑用を告げられた二人の膨大な仕事量に学校中の雑草抜きとか言われたらどうしようと内心ヒヤヒヤする。

「ユカさんには前と同じく見張りをお任せしますね。」
「え、また見張りですか...?」
「はい。交代で氷浦くんと岩戸くんの見張りをお願いします。朝は氷浦くん、そして放課後は岩戸くんを見ていてください。」
「わかりました...。」

一応それなりの覚悟をしていたのに私の仕事は見張りかい、と拍子抜けしたけど前みたいに体を酷使することないならまあいっかとひとまず安心することにした。

「因みにどういう形であれお手伝いは禁止ですからねっ!」
「わかりました。」
「それでは頑張って下さい〜」

監督は笑顔でフリフリと手を振るとサッカー塔に向かっていった。去り際に鼻歌で昨日やっていたゲームのBGMらしきものを歌っていたので今からゲームでもするんだろう。

「相変わらず呑気ですね監督は。」
「ほんとにね。壁掃除と水やりの意図も分からないし...。」

壁掃除も水やりも膨大な時間がかかると思われるしそうなると二人はいつまでも試合に向けた練習に合流できないということになる。やっぱり監督の考えていることは分からない。

「でもやるしかないですよね。俺は何か意味があると信じてやってみます。」
「そうだね。とりあえずやるだけやってみよう!」

「頑張るぞ、オー!」と今一度気合いを入れ直すべく拳を作って天に向かってパンチすると氷浦くんも微かに笑いながら拳を握って空へと突き上げた。


.....と気合いを入れたのが2時間前ほどのことで現在時刻は七時前。朝練があるのか登校してくる生徒が増え始める時間帯でそんな生徒をグラウンドの隅っこに置いたパイプ椅子に座りながらボーっと見つめたり時にグラウンドを忙しく駆け回る氷浦くんを眺める。

「......暇....」

グラウンドをドボドボべちゃべちゃに濡らして行く氷浦を見つめながらボソッと呟いた。ほんといま発した言葉が今現在私の頭を埋め尽くしており、暇、ヒマ、ひま、hima、と漢字だったりひらがなだったりと脳味噌にべったり張り付いている言葉は“ひ” “ま”という二文字に尽きる。今回は前みたいに記録することがなくただただ氷浦くんはサボらないかを見てるだけだしそれに氷浦くんはびっくりするほどバカ真面目に水を撒いているのでほんとやることがない。暇すぎてほんのさっきまでしゃがんでグラウンドの砂の中からスズメの涙と竜の涙探しなんてものをやっていた。小学生の時みんなとよくやって見つけた数を競ったわ懐かしい...と懐かしさに浸っていたけどそれも飽きてやめてしまい現在に至る。


(英単語でも覚えようかな...)

一応これでも受験生というか火来の話さえ無ければ私は今頃志望校合格というサクセスストーリーの脚本に沿って成功への架け橋を突っ走っているはずだった。塾の講師と運命的な出会いを果たし、時にぶつかり時に泣き、笑い、そして時にポロリ......はないな、まあとにかく受験生活を送っているはずだった。マネージャーをやって後悔があるわけじゃないけどほんとに勉強がやばい。次の模試が怖すぎる......と焦りに駆られカバンから単語カードを取り出した。無駄に綺麗な字で英単語を書いた裏には無駄に色んな意味を書きまくった日本語訳がある。breakという単語に壊す、切断する、破る、折る、などめい一杯の意味を書いた下には小さな字で例文まで書いてある。こういう無駄に書き込み多くて無駄に綺麗に書いてる人間に限って書くことに満足して勉強できないんだよね、まあ私のことなんだけど、はっはっは、って笑えないからな三宅ユカ。

(まあとにかく頑張るぞ!)

頑張って単語を覚えて次の模試で先生をギャフンと言わせてやる!と私は一人気合いを入れて単語暗記に取り掛かった。


......のが10分ほど前のことでさっきまで暇一色だった頭を埋める次なる言葉は“眠い”だった。暇だからいくらでも勉強すればいいのに生憎私の脳はいくら暇でも勉強はしたくないらしい。まったく我儘極まりない脳みそだと思いながらブンブン頭を振って必死に睡魔を撃退しようと試みるけどなかなか睡魔は私から離れて行かない。こんな私に取り憑くくらいなら全国の不眠症に悩んでる方のところへ行ってくれ、君の才能をこんなところで潰しちゃいけない。適材適所、アンダースタンド?とさっき出てきた英単語を駆使して語りかけていたその時だった。


「うわっ!!」


バシャっと背中から頭に冷たい衝撃が走りそれは頭を超えて前の方までかかって来た。ポタポタと目の前に落ちて行くのは水で水をかけられたと気づくのに時間は要らなかった。
まじでいきなり過ぎて寿命縮んだ、五年は縮んだ!一体誰だっ!と勢いよく振り返るとそこには妙なお面、というか可愛さのカケラもない被り物をしたいかにも中国人な装いをした小柄な何者かが立っていた。