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見事アイランド観光という有名旅行会社をスポンサーとして獲得した伊那国のみんなは無事雷門でサッカーを続けられるようになった。なにが起きたのかみんなから聞いた話を簡潔に纏めるとTOKIOサンシャインタワーで観光していたらアイランド観光の社長さんが突然現れて「君たちの試合激アツ胸熱最高だったからおじさんドキドキしちゃった。お金は幾らでも出すよ。」と言ってきたらしい。なんだか少しいかがわしい感じの文になったけれど気のせいだ。実のところ話を聞きながらあまりの嬉しさに泣きまくったからイマイチ覚えてない。とりあえず話を聞きながらほんと奇跡って起きるんだ思ったことは覚えているけれど格上相手でも諦めることなかったみんなの姿を思い浮かべると起きたというより起こしたという言葉が適切なのかもしれない。

そんなスポンサーが付きみんながサッカーを続けられめでたい展開の中私が唯一、唯一スポンサー獲得によって気に食わないことは火来校長のことである。今回のスポンサー獲得によって火来校長の首の皮一枚繋がったことが非常に、ひじょおぉーーに残念でしかたない。けれどフットボールフロンティアへの参加権を無事獲得し、勝ち点を増やせば決勝リーグ出場も夢じゃないと監督とコーチから聞いて俄然やる気になったみんながサッカーする姿はとても輝いているので良しとする。命拾いしたな、火来。と校長の太眉を思い浮かべながらみんなの練習している姿をベンチから見守る。朝から汗を流してグラウンドを走り回るみんなはサッカーを楽しんでいて見ているだけでこっちも楽しくなる。登校する生徒やあの嫌味な生徒会が面白くなさそうに見ていたりしたけれどスポンサーがついたことによって見る目が変わった生徒も一定数いるようで朝練が終わり教室へ行くと友人たちに「なかなかやるんだねあの田舎島イレブン。」と声をかけられた。「いや田舎島しゃなくて伊那国だから。」と返しながらも嬉しさ故つい笑みが溢れるのを止められずニヤニヤしているとキモいと言われた。ひどい。

そして授業が終わって放課後になり私はみんなと一緒にミーティングルームで次の試合について説明する監督の言葉に耳を傾けていた。私の隣にはこれからも共にマネージャーを続行することになったつくしちゃんが立っている。マネージャーを続けられると知った時、それはそれは2人で抱き合って喜びを分かち合った。その時のつくしちゃんの柔らかいお胸の感触は一生忘れない。ちゃんと胸に刻んだ、胸だけに。

「次なる対戦相手、それはサッカー界に聳え立つ要塞、美濃道三中でぇす。」

そんな本人を真横にやばいことを考えているとスクリーンに美濃道三中の生徒が一斉に映し出された。映し出された生徒たちを見てお相撲さんと形容する剛陣くんに確かに相撲もいいけどこの体躯なら私は彼達にアメフトを勧めるな、なんて思っていると亀田コーチが「美濃道三は来る者全てを跳ね返し誰一人として侵入させない。それが美濃道三のサッカー、その名も要塞守備。」と神妙な顔で言った。岩戸くんが「なんか怖いでゴス。」と眉を八の字にしている。

「そういえば美濃道三中って確か壁山くんが派遣されたんだっけ?」
「そうそう。要塞守備に壁山...DFを切り崩すのは容易じゃないかもね。」

壁山といえば派遣される前の緊張しきった姿が忘れなれない。「こんな俺で大丈夫ッスかね...。」と自信なさげに弱々しい言葉を吐く彼の背中をバシバシ叩いて励ましたのはもう数ヶ月も前......ちゃんと強化委員やってんのかなと1人しみじみ思っているとどうやらみんなに私とつくしちゃんの会話が聞こえていたみたいで「要塞守備だけじゃなくて伝説の雷門イレブンの壁山さんまで....」と岩戸くんの目が回り出して周りの表 情も少し陰り出した。声のボリュームに気をつけるべきだったなと少し反省しながらみんなを見るけれどFWの2人...小僧丸くんと剛陣くんは全く動じていない。

「攻めりゃ良いだけだろ、守っている相手なんて。」
「ビビってんじゃねえぞ。俺がぶっ壊す。」

バチッと要塞を自らの攻撃で崩すと意気込む2人の間に火花が散る。攻めればいい....確かに守備を崩すには攻めだろうけれど果たして攻めだけで崩すことができるだろうかと不安を抱く。そもそも今の雷門には必殺技がない。小僧丸くんのファイアトルネードがあるけれどシュート技だけじゃ守備は崩せないだろう。試合までの時間は僅か一週間。必殺技がない中一体どんな練習が組まれるんだろうと思っていると監督が前のようにタイマーを設置したスマホを取り出して「これからやる特訓はただ一つです。さてなんでしょう。」とタイマーのボタンをポチっと言って押した。稲森くんがいち早く「はい!相手の守りを崩す特訓!」と挙手していうけどブッブーとハズレの音楽が流れた。

「んんー!ざんっねんっ!ハズレでぇす!正解はこちら....ぽち。」

監督が画面をタップすると画面はタイマーからスネアドラムに切り替わった。ドコドコドコドコドコドコドコと無駄に長いドラムの音の後パパーンと軽快な音楽が流れ、監督がニヤリと笑いながら「守備を固めまくることでぇす。」と言った。

「えっ?守備だけ?」
「それで要塞を突破できるとは...」

守備を固めまくることか.......。守備のプロフェッショナル相手に守備を固めることにどんな意味が、と考えるけれど相手が守備の面で秀でているのに対してこっちは何か秀でているものがあるかと言えばそうではない。もし伊那国が攻めの点で優れていれば攻めに更に磨きをかければいいけれどそうではないと考えた時攻め以外の道を探す他ない。その攻め以外の道が監督の言っている守備を固めまくることで合っているのかは分からないけれどきっと何か監督なりに思い描いている絵があるのだろう。どんな絵か私も、そしてきっとみんなも毛頭検討がついていないだろうけれど「監督の指示は絶対です。」と監督が笑顔で言っているので監督を信じる他道は無いようだ。

「待ってください!攻撃の特訓をすべきです。そんな敵の守備、フォワードの俺が突っ込んでぶっ壊します。」

でもそんな中小僧丸くんだけが1人立ち上がって監督に抗議した。ファイアトルネードを習得してしまうほどの生粋のFW気質である小僧丸くんからしたら確かに面白くない練習内容だろうなと思っていると監督はそんな小僧丸くんの言葉を無視していきなりタブレットに機器を接続するとテレビゲームを始めた。「ほっほっほっ!」とコントローラを握ってファミコンゲームを彷彿とさせるドッド絵のサッカーゲームを集中し出した監督の姿をみんな呆れ顔で見つめ小僧丸くんに関しては身体を震わせて監督の背中を睨んでいる。監督も無視はあんまりだし考えがあるならちゃんと言ってあげればいいのに。肝心なところで言葉足らずな監督に漠然と不安を感じていると画面にGAME OVERという赤い文字が浮かび上がって不安が更に広がった。