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8

ついに試合当日が来てマネージャーである私は諸々の準備のために早めに家を出た。こんな早くに何処行くんだと納豆をぐるぐるかき混ぜなら尋ねてきた父に今日は試合なの!と返すと「そうか!全力で敵をぶっ飛ばしてこい!」とエールを送られた。うんお父さん、私、マネージャー。

そんな未だに娘が何をやっているのかいまいち分かっていない父に若干呆れながら学校に向かっていた私だけど校門の前に立っているある姿に足を止めた。毎日がハロウィンとよく形容される(されない)この世界だけどそんな個性溢れた人々が多く存在する中でも特に印象が強く一度みたら忘れられないビジュアルをした鬼道有人が安定のゴーグルとドレッドヘアを拵えて校門の前に立っている。鬼道は私の気配に気付いたのかこちらを向いてフッと笑った。


「久しぶりだな。」
「えっ、ここでなにしてるの。」

今日あんたの学校がうちの雷門と試合するはずだよね。どういう了見でここにいるんだもしかして棄権か、あの日のようにドヤ顔で棄権するのか、という意味を込めて鬼道に言葉を返す。

「お前がマネージャーに戻ったと風の噂で聞いてな。様子を見に来た。」
「星章まで届く風の噂ってどんな風よ。さては風丸だな。風丸が噂に疾風ダッシュを唱えたな。」
「春菜がイナッターで出回ってるらしいこの画像を見せてくれた。」

イナッターだと...?と鬼道が差し出してきたスマホの画面を見た瞬間私は鬼道からスマホを取り上げて画面を凝視する。そして奇声を上げそうになった。そこには脚が大爆笑した日の私の写真、つまり練習初日の私が写っていた。必死に自転車を漕いでみんなを追いかけていた妖怪の様な姿の私が。腰の曲がり具合を見る限り90往復目前後くらいの写真だと思う。

「ちょっちょっと待って。なにこれ。え、普通に肖像権の侵害なんだけど。これ掲載した奴ネットリテラシーって言葉知ってる?SNS永久追放ね。即凍結ね。というか存在そのものを凍結すべき。」
「雷門の生徒が面白半分で載せたらしい。案ずるな。非難するリプライが絶えなかったみたいで今はもうアカウントごと削除されている。」
「垢消しでトンズラとか小物か。」

あぁ、一度出回った写真は一生は消えないっていうのに。詰んだ。こんな妖怪画像が一時期でも出回っていたとか人生詰んだ、と呟きなら落ち込んでいると、案ずるな。と鬼道が言った。

「お前の人生は写真が出回る前から詰んでいる。」
「喧嘩売りに来たんなら最初からそういってくれるかな鬼道くん。」

案ずるなとか言うから鬼道財閥のなんかそのすごいなんかを使って写真を抹消してくれるのかと思ったわ。
手に持ってるスマホこのまま地面に投げてやろうか、と笑顔を浮かべて腕を天辺まであげたけどあっさりと取り上げられた。くっ、あと5cm背が高ければっ...。

「まあそれにしても試合当日なのに相手の学校にわざわざ赴くなんて随分余裕なんだね。天才ゲームメーカー改めピッチの絶対指導者さん。」

悔しくて笑顔を浮かべながら嫌味たっぷりの言葉を送るとなにがおかしいのか鬼道はフッと笑った。その人を小馬鹿にしたような笑顔本日二回目だよ。

「今日の試合に俺は出ない。」
「へえ出ないんだ....って、えっ!マジで!?嘘ついてない?神様に誓える?お釈迦様に誓える?サッカーに誓える?ペンギンに誓える!!?」
「寄るな、いきなり寄るな。それとペンギンに誓えるってなんだ。」

だって鬼道といえばペンギンじゃん、スピンオフでも目ギラギラさせながらペンギン推してるじゃん、後輩の雛ペンギンみて驚いてたじゃん、と言うと「なんの話だ。」と眉を顰められた。まあそれは置いといて、鬼道が試合に出ないということはこれは伊那国が勝てる可能性が上がったということだ。嬉しすぎてさっき失礼な発言をされたことなんて宇宙の果てまで飛んでってつい食い気味になると鬼道が眉間に皺を寄せて私の前に手の平を出してきた。明らかに「これ以上近くに寄ってくるなバカが移る能天気。」という手だけどテンションの上がった私はその手と握手を交わすべくガシッと掴んでブンブンと上下に振った。鬼道は私の勢いに狼狽えた表情を見せたけど勢いに気圧されたのかされるがままになった。

「ありがとうね、鬼道!」
「お前がどういう意味で感謝を述べたのか大体分かったが星章を見くびられては困るな。...それに今日はあいつが出る。」
「あいつってもしかしてフィールドの悪魔とかいう厨二病?」
「ああ、今日の試合には灰崎が出る。」

鬼道サラッと厨二病イコール灰崎って認めたんだけど。星章に行った瞬間新ユニフォームとの着合わせを気にしてマントを赤に変えた鬼道には言われたくないよね灰崎くん...と会ったことのない灰崎に語りかける。もちろん返事はない。
それにしても鬼道が居なくても灰崎が出るとなると今日の試合はかなり厳しい展開が予想される。 灰崎凌兵 、サッカー界に彗星の如く現れた凄腕のプレイヤーで出場した試合では10点以上相手のゴールを奪っていく天才ストライカーだ。強引なプレースタイルからフィールドの悪魔という異名がありワンマンプレーが過ぎると悪評も聞くけどそれでも星章学園が試合に彼を出すということはワンマンプレーを差し引いてもよっぽどの決定力があるのだろう。


「きっと灰崎にとって今日の試合は大きなキッカケになる。闇の中から光を見つけ出すキッカケにな...。」
「へぇー...。」

急にキッカケだの闇だの光だの言い出した鬼道の言葉を聞き流す。鬼道たまにこうやって語り出す癖あるからね、こういう時は遠慮なく聞き流してくれて大丈夫だよみんな。

「それにしてもお前をマネージャーに起用するとは大胆なことをしたものだ。」
「マネージャー経験者をマネージャーに起用することの何が大胆だっていうの。」
「...フッ、まあお前なら上手くやっていくだろうな。」
「無視か!それとそのフッっていう笑み本日3回目だからね!自分がカッコいいとか思ってるのかな!」
「女子からの人気そこそこ高いと自覚している。」
「そこに反応しなくていいから!てかそこそこどころかめっちゃあるわ!ムカつく!」

やいのやいの鬼道へ色々言っているとポケットに入れたスマホが振動した。誰だ、とスマホ見るとつくしちゃんからメッセージが入っていた。“今どこ?”と可愛らしいスタンプと共に送られてきたメッセージに時間を見ると到着予定時間を優に過ぎていた。これはやばい。


「鬼道のせいで遅刻じゃん!私もう行くから。」
「別に引き留めた覚えはない。勝手に行け。」
「ゴーグルに感謝しなよ。無かったら目を潰してるところだったわ。言っとくけど今日の試合うちが勝つからね!コテンパンにされた姿をみて試合を出なかったことを精々後悔することね。」
「それは楽しみだな。新星雷門のお手並み拝見と行こう。」
「首洗って待っとけって星章の選手全員に言っておいて。」

それだけを言って私は鬼道に手を振ってダッシュでサッカー塔に向かう。去って行く私の背中に向かって鬼道が「お前なら大丈夫そうだな、三宅ユカ。」と呟いていたのは知らない話。



「さあ雷門中と星章学園の面々がフィールドに散っていきます!」

場所は変わって星章学園のスタジアム。久々の試合、しかもフットボールフロンティアなこともあってか心臓が興奮気味に高鳴る。会場いっぱいいっぱいに響く声援と角間さんの熱い実況に耳を傾けていると亀田コーチはやる前から結果は見えている、フィールドの悪魔にぶつけるなんてみんなを潰すつもりかと監督に訴えていた。

「コーチ、試合が始まるので座りましょう。」
「三宅...そうだな。」

コーチの言葉を物ともせずフッフッフッフと不敵に笑う監督を一瞥したコーチは呆れ顔を浮かべながら私の横に腰を下ろし、「一体何を考えているのやら...」と小さな声で呟く。きっと選手同様コーチも監督に不信感を抱いているのだろう。けれどここまで来たのならもう後戻りはできない。選手を信じて私たちは応援するしかない。

「選手を信じましょう、コーチ。」
「...三宅」

私の言葉にコーチは私の方を見た。目を見開いたその表情に少し得意げな心持ちでいると「三宅がまともなことを言ってる...。」と心外なことを言われたので脛に事故を装って軽く蹴りを入れた。
うっ...と小さく蹲ったコーチにごめんなさい、と棒読みで言った数秒後、ついに試合開始のホイッスルがグラウンドに鳴り響いた。