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吐いた息が白く染まって空気の中に溶けてゆく様を見ていると隣に立つ彼女の呻き声が聞こえてくる。

「さむい...さむいよさむすぎる....」

自身の体を抱いてガタガタと小刻みに震える彼女の口から寒いという単語は一体何度出てきただろうか。数えてはいないがさっきからずっと彼女はこの単語を繰り返していた。確かに寒いがどうやら彼女よりかは遥かに寒さに強いらしい自分は彼女が何故そんなに震えているのか理解出来ない。

「そうですね。」

理解は出来ないがとりあえず共感すると吐いた言葉が息と同様に白く空気の中を舞って溶けていった。ついさっきまでは無意識に溶けゆく様を見ていたがこうやって言葉さえも白くなるということは実際はかなり寒いのかも知れない。そんな事を思いながら隣の彼女へ視線を送ると彼女が何やらジッと俺を見つめている。どうしたんですか、と彼女に訊ねる前に彼女が先に口を開いた。


「西蔭、ブレザー広げて。」


彼女から突如なされた言葉に一体何がしたいのかかという疑問が真っ先に浮かんだ。けれど彼女の突飛な発言や行動に不本意ながらもいつも振り回される側としては慣れたと言っても過言ではなく彼女に言われたままにボタンを一つ二つと外してブレザーを広げる。広げた途端にブレザーという守りを失ったシャツに冷んやりとした風が染みてくる。なるほどブレザー一枚で変わるものだなと思っていると突如風が遮断されそこに温もりが生じる。視線を下ろすとそこにはさっきブレザーを広げろと言った彼女がいて彼女の身体が俺の身体にぴったりとくっついており彼女の腕と思われるものがブレザーの中をもぞもぞと動いて背中へと回ってくる。

「あったか〜い」

回した腕に力を込めながら彼女は言った。どうやら彼女は俺を利用して暖を取りたかったようだ。恥じらう様子が微塵もない姿を見る限り恥じらいよりも寒さをなんとかしなければという気持ちが勝ったのだろう。だとすると俺は今彼女から見て温かさを提供する巨大なカイロと言ったところか、と自分で自分を比喩しておきながら少し情けない心持ちになるがこんな気持ちになるのも全ては彼女の所為で違いない。

「よかったですね。」

けれど彼女の行動が暖をとるためだったとは言え不覚にも心が動いてしまい咎める気にはなれず一言彼女のつむじに向かって言うと自分よりも一回り以上小さな背中をブレザーで覆った。そして密着した身体の感触をシャツ越しで確かめるように腕に力を込めて強く抱く。

「ちょっと急に苦しいんだけどゴリラしないでくれる?」
「...ゴリラしないでってなんですか。」
「あーーーッッ!!痛いっ!!絶対意味分かってるでしょ...!ってごめんって!もうゴリラって言わないから!!」

ゴリラなんて可愛げなく言う彼女に仕返しの意を込めて腕の力を強めると彼女はジタバタと暴れ出した。ブレザーの中の手が背中や脇腹を叩いてくるが痛いどころか痒くもない。
そんな腕の中で忙しく声をあげたりする彼女を暫く見守った後腕の力を徐々に緩める。


「...西蔭のバカ。」

緩まって余裕が出来たのか彼女はジッと俺を見上げて言った。目の力を込めて睨んでいるつもりだろうが彼女の鋭い目つきとブレザーの中で再び背中ヘと回ってくる腕は裏腹で背中を弄る手のいじらしさに無意識に動いた片手が彼女の頭を優しく撫でる。頭の上を往来する俺の手に彼女は特に指摘することは無かったけれど目から力が抜け目つきが幾分緩やかになった。そんな彼女の頭を繰り返し撫でながら「ホットミルク出すので部屋に来ませんか。」と言うと彼女の目が見開かれる。「あなたの好きな蜂蜜入りです。」と続けると見開かれた目が気まずげに揺れた後に逸れた。彼女が喜ぶだろうと思って言ったつもりだったが何か気に障ったのだろうか。彼女をじっと見つめながら言葉を待っていると彼女の唇が控えめに開いた。


「....ホットミルク出すだけならいいけど。」

少し間を開けて発された彼女の言葉はさっきよりも幾分声が小さく、そして心なしか頬が少し朱に染まった気がする。


「......もちろんホットミルクを出すだけです。」

彼女が一体何を言いたいのか、言葉の裏に隠れたそれを読み取り理解した上で返すと「間、間が怖い。」と返された。自ら意味深長な発言をしておいてその返しは些か可笑しいと思ったが言葉にすることにより無駄な言い合いに発展するのが億劫で言葉にするのは慎んだ。その代わりに彼女の背中に回した腕を解きそして足を掬い上げて彼女を抱き上げた。「うわっ...!」と驚きと困惑が混ざった声が聞こえたかと思った次には彼女の顔が自分の顔よりも高い位置にあった。

「...足が冷えてますね。早くお部屋に行きましょう。」
「ふっ太もも触ったでしょ今...!」

見下ろされることに新鮮さを覚えながらジタバタと元気に動く彼女の動きを封じようと彼女の身体を肩へと担ぐ。不安定な体勢に彼女の煩ささも動きも増すが「下着見えますよ。」と言うとさっきまでの動きが嘘のようにピタリと止まった。....半ば冗談のつもりで言ったが彼女はどうやら中に下着以外のものを纏っていないらしい。そんな彼女の無防備さに呆れを覚えつつ俺はスカートへそっと手を当てた。


「西蔭のばかやろう....」

後ろから悔しさを滲ませながら言う彼女に馬鹿は一体どっちなのかといった気持ちを抱きながら「行きますよ。」と一言言って自室に向かう一歩を踏み出した。