翌日、また封筒が入っていた。
その次の日も入っていた。
さらにその次の日、つまり昨日も入っていた。

今日は入っていなかった。と思ったらリビングで虎徹が封筒を持っていた。
バーナビーは封筒を受け取ると、やはり虎徹に言われた。

「最近、手紙よく来るな?」
「僕のポスト見てたんですか」
「封筒半分出てるんだから目に入るだろ?俺が取ったのは今日だけだ、雨だったからな。いつもはスルーしてた」

虎徹がバーナビーに封筒を手渡す。封筒は開いていない。

「中は見てないんですか?」
「封筒あいてねぇだろ?取っただけだよ、濡れたら困るだろ」
「濡れても構わないんですけどね」

こんな気持ち悪い手紙なんて濡れても構わないと心底思っているのだが、虎徹はそれを笑って否定させた。

「またまたー!封筒を大切そうに両手で持って急いで部屋に入って行くのをおじさんはよく目撃しています!」

別に大切そうにした覚えはない、とバーナビーは心の中で反論した。

「もしかしてコレ?」

虎徹は「コレ」と言いながら小指を立てた。確か小指を立てるその手の形は「恋人」を意味するものだ。

「……違います」
「えー、違うの?」
「違いますって」

怪しいなーなんて言いながら、虎徹はバーナビーの手の中の封筒を見詰めていた。

隠している以上、誤解されるのは仕方ない。が、恋人などと言われると反応に困った。
だからと言って本当のことを話して、面白がられたり騒がれたりしたら面倒臭い。

バーナビーはもう一度「本当に違いますから」と念を押してからリビングを後にした。



このまま誰にも会わず、部屋に戻り、一人で研究所で学んだことの復習をする。はずだった。
――はずだった、のに。

「い、今、時間ある?」

想定外の出来事だった。階段を上がった廊下にいたのはカリーナで、その手には数学のテキストがあった。

僕は暇じゃない。まずこの白い封筒をなんとかしたいし、勉強もしなければならない。
きっと「勉強を見ろ」という話なんだろうけど、断ろう。申し訳ないけどそんなことをするよりは他にもっとやるべきことがある。

「……別に忙しくないですけど」

その答えに自分でも驚いた。
何故断らなかったんだ。やるべきことが沢山あると、頭の中ではわかっていたのに。

「よかった……勉強教えてほしいの」
「……見ればわかります」

今から断るわけにはいかない、と、バーナビーは部屋のドアを開けて中にカリーナを入れた。

「なんか意外。駄目元だったから」
「駄目元?」
「教えてくれって頼むの。拒否されて終わりかと思ってた」
「ああ」

バーナビーは、薄すぎるために二枚重ねて敷いていた座布団のうち一枚をカリーナの方にやりながら呟く。

「僕も意外でした」
「何が?」
「……拒否しなかったのが」
「なにそれ」

カリーナはくすくすと笑う。
2人は向かい合わせになるかたちで背の低い机の前に座って、テキストを開いた。

「……やっぱり一枚だと薄いわよね、この座布団」
「あなたの部屋もですか?」
「私の部屋のは大丈夫。……前にここの部屋にいた人がアパートを出た時にね、みんなで薄い座布団をこの部屋に回したから」
「えっ」
「ホァンとか折紙とかとね、どうせ誰もいない部屋なら、薄くて痛い座布団を回したって構わないよねって」

バーナビーはそれを聞いて溜め息を吐いた。
今までずっと座ってると身体が痛くなったのはそのせいだったのか。

「酷いですね…新人イジメだ」
「そんな大袈裟な言い方しなくていいじゃない、もう!」

カリーナは頬を膨らませてみせる。
口には出さないが、カリーナはバーナビーから見ても「美人」な部類で、世の人はこんな表情を見て悶えるんだろうな、なんてことを考えた。

ふとカリーナが立ち上がる。

「まだ座布団あるんじゃないの?」

彼女がしようとしていることにバーナビーが気が付いたときにはもう遅く、カリーナは押し入れに手を掛けていた、

「、待っ――」
「何これ……?」

彼女が押し入れを開けると、そこにあるのは例の真っ白の封筒と大量の写真。
カリーナが写真を数枚手に取ったところで、後ろから伸びてきたバーナビーの手が全て奪った。

「ねぇ、何よ今の写真」
「……なんでもないです」
「タイガーが言ってる"最近多いバーナビー宛ての手紙"ってそれなの?」
「関係ないじゃないですか」

はぐらかそうとするバーナビーに、カリーナは尚も食い下がった。

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