意味がわからなかった。
バーナビーは部屋で一人、封筒の中の写真を出して眺めていた。
大体みんな似たようなアングルからの写真だったが、どこから撮られているのかは検討がつかない。何故ならそのアングルから撮るには、鏑木荘の裏にあるマンションの敷地内に入らなければいけないからだ。
鏑木荘も見た目に寄らずなかなかにセキュリティが整っているが、裏のマンションはそれとは比にならないくらいに警備が固い。そんな所に簡単に入れるはずがない。
(やっぱり、鏑木荘の住人のうち誰かが?)
バーナビーがそんなことを考えていると、どこかからフラッシュが焚かれたような気がした。
はっとして辺りを見渡すが、窓もドアも開けていない。気のせいだったか、とバーナビーが思うと、さらにもう一度フラッシュが焚かれる。
気のせいでは無かった上に、今度はどこから焚かれたのかが特定出来た。
ただ自分を撮られたかと思ったのは自意識過剰だったようだ。
「折紙先輩?スカイハイさん?」
彼らのハンドルネームを呼びながら、部屋の壁の下部に貼られた引ったくり予防のポスターをめくる。
バーナビーがその大きめの穴から覗き込むと、イワンとキースがポラロイドカメラを持って何かを撮影しているのが見えた。
「あ、バーナビーさん!」
イワンが穴の前に来て正座する。それをキースが写真に撮ると、イワンは「なんで僕を撮ってるんですか」と苦笑した。
バーナビーは首を傾げる。
「何してるんですか?」
「商店街の福引きでポラロイドカメラを貰ってね!折紙君のコレクションを写真に収めていたところさ!」
「ポラロイドカメラですか……」
封筒に入っていた写真はポラロイドカメラで撮ったようなものではなかった。なんだか、もっと、デジタルカメラで撮ったものを現像したようなものだった。
「カメラが手元にあるのって珍しくて。あと撮影したらすぐに写真が出来るのが楽しくて……色々撮っちゃいました」
イワンの言葉にバーナビーは意外そうな顔をした。
「カメラ、珍しいですか?」
「はい。持ってない方が珍しいかもですけど、みんな持ってないんですよ。ね、スカイハイさん」
「そう!携帯についてるカメラで済ませてしまうからね」
――みんな持ってない?
バーナビーは「そうなんですか」とだけ言って、ポスターを元に戻した。
みんな持ってないと言うことは、写真を撮ったのは住人の誰かでは無かったということか。
不快だとか不気味だとかの感情よりも、意味がわからないという思いの方が強い。こんなことをして何の得があるのだろう、と。
とりあえず、写真は隠そうと思った。何故だかわからないが、このことを住人達に知られたくなかった。
恥ずかしいからか、情けないからか、バーナビーにはわからなかったが、とにかく隠そうと思った。
家具が背の低い机しか無い部屋で、バーナビーは封筒を押し入れに入れた。二段に分かれている押し入れには上の段に布団がある以外何も入っておらず、下の段に入れた封筒は隠した気がしなかったが、そこしかない。
「隠す」と言うより「入れる」と表現した方がしっくりくるくらいに隠した実感が無いが、バーナビーはそれでやり過ごすことにした。