それから数日後。
リビングでネイサンがテーブルに置いたものを、自分の部屋に篭っているバーナビーを除く全員が視線で追った。

「すごーい!」

リビングにホァンの声が響いた。それを号令に、周りにいた住人達もはしゃぎだす。
テーブルの上には早くも例の雑誌の最新号があった。

「表紙飾ってんじゃん!すげぇー!」
「中にも沢山載ってる!」

わいわいとバーナビーのいない部屋で勝手に盛り上がっていると、リビングに本人が入って来た。

「あ、本物だ」
「は?」

雑誌が出来たことを聞かされていなかったらしいバーナビーは、当然意味がわからないと言った風な顔をする。
虎徹は雑誌をバーナビーの前に突き付けた。

「バニーちゃんみた?"謎の美青年"だって!ほら!」
「……あぁ、それですか……やめて下さいよ、恥ずかしい」
「カメラマンもバーナビーのこと気に入っちゃって!是非また会いたいって言ってたわよ?ねぇハンサム、このままウチで働かない?」
「勘弁して下さい」
「バーナビーさんモデルになるんですか?」
「なりません」

次々と飛んで来る質問に、バーナビーは眉間に皺を寄せる。やはり面倒なことは断っておくべきだったと今更ながら少し後悔した。

そのまま黙ってリビングを出る。
本当は今朝マーベリックから来た手紙を虎徹にも見せようと思ってリビングに来たのだが、あの空気でそんなことをしたら余計に面倒臭くなりそうだった。
手紙には転居先が決まったこと、遅くても一ヶ月後には転居出来ることが書いてあった。

バーナビーは自分の部屋に戻る前にちらりとポストを覗く。
自分に手紙を寄越す人なんてマーベリックだけだし、そのマーベリックから今朝手紙が届いたばかりなのだから手紙など来ているはずがないとは思ったのだが、これはもう癖だった。
しかし、予想は外れた。
ポストに、一つ封筒が入っている。

(……?)
宛先も差出人も書いていない。封筒は厚みを帯びている点を抜けば新品のようにも見えた。

自分宛なのだろうか。誰から?
バーナビーはその場に立ったままその封筒の端を破いた。
すると、中には写真が数枚入っていた。

「えっ……!」

思わず声が出る。
中から出て来たのは、全てバーナビーの写真だった。それも、明らかに隠し撮りの。

(……なんだこれ)

様々な写真が10枚ほど入っている。
朝早く研究所に行くときの写真、お使いを頼まれて野菜を持っているときの写真、車の中で寝てしまったときの写真、虎徹にお姫様抱っこされているときの――……。

「……!?」

これは見覚えが無い、とバーナビーは今考えるべきことよりもこの写真に意識を集中させた。

(どうして僕がおじさんにお姫様抱っこなんか)

すると、タイミングを見計らったのか疑いたくなるくらい丁度良いタイミングで虎徹が姿を現した。

「あれ、バニーちゃんそんなところで何してんの?」
「……」

バーナビーは素早く写真を封筒に戻し、虎徹の方に向き直る。
虎徹は鋭くその封筒に視線を向けた。

「手紙?」
「そうですけど」
「マーベリックさん?」
「関係無いでしょう」

バーナビーは手紙を片手に階段の方に向かって足を踏み出した。
しかし、先程の写真が気になって歩みを止める。

「……虎徹さん」
「ん?」
「……、……この前僕の帰りが遅くなったとき、あなた起きてました?」

さすがにお姫様抱っこから先には言えず、回りくどいがそこから話を切り出してみる。
すると虎徹はにっこり笑って言った。

「お前寝顔は幼かったな!」

わりと言われたくなかった部類のことを言われ、バーナビーはあからさまに嫌そうな顔をした。

「……起きてたんですね」
虎徹は「ああ」と頷くと、思い出したように付け足した。

「あとお前身長のわりに軽かったよな、ちゃんと食わねぇからだぞ」

その言葉で、バーナビーは確信した。

「……どうして僕の体重を知ってるんです?」
「なんでって?あ、そっかバニーちゃんは寝てたから覚えてないのか!ネイサンがお前のこと抱えながら荷物持つの大変そうだったから、お前は俺が運んでやったんだよ」

バーナビーは脳裏にあの写真を思い浮かべた。
だとしたら、封筒に沢山入っていた写真を撮影したのはネイサン?いや、彼女だったら無記名の封筒に入れて、しかも直接渡さずポストに入れるなんて回りくどいことはしないだろう。

「……お手数をお掛けしました」

バーナビーはそれだけ言うと、逃げるように階段を上がった。

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