※Twitterで散々騒ぎましたが、結論として現実には現金書留をポスト投函はありえないですすみません!





「もう勉強は終わったのか?」

バーナビーがアパートの玄関のところにあるポストを確認しようと下の階に降りると、階段下で虎徹に捕まった。
いちいち話し掛けてこないと気がすまないのかこのおじさんは、と内心毒づく。

「終わりました。理解できたみたいなので」
「そっかそっか…そうだ、バニーちゃん」

虎徹が自分の着ている厚手の上着のポケットを探り、中に入っていたものを取り出してバーナビーに見せ付ける。

「現金書留」
「!」

それは、自分が今まさにそれがポストに入っているか確認しようとしていたものだった。現金を郵送するための特殊な封筒に掛かれた、見慣れたマーベリックの几帳面な字。間違いなく自分宛てのものだ。

「お前宛てだろ、ほら」
「どうしてあなたが…」
「現金入ってんだろ?見つけた人が一刻も早く受け取っとくべきかなと思って」

確かにそうだ。この家のポストはほとんど外にあるようなものだ。現金を入れっぱなしにしていたら危ない。

「…ありがとうございます」
「学費?」
「いえ、家賃です。丁度月末ですし今渡しちゃっていいですか?」

ああ、という虎徹の返事に、バーナビーはその場で封筒を破り中の現金を取り出した。
明日から研究所で本格的に研修を始めるとはいえそれは仕事ではない。でもバイトをする時間もないので手持ち金が無いバーナビーは、この下宿所の家賃をマーベリックに送ってもらっているのだ。
親が残した資産があるので学費や家賃その他諸々十分に支払えるのだが、「少しは親のようなことがしたい」と主張するマーベリックの意見を尊重した結果だった。

「600ドルです。確認して下さい」

パラパラと紙幣を数え、虎徹が大部分をバーナビーの手に戻す。

「おつりの500ドル」
「は?」
「いや、だから、おつり」

これでもかというくらいに眉を顰めて、バーナビーは虎徹を見る。ずいと押し付けられるように半ば無理やり手渡された紙幣を流れで受け取り、首をかしげた。

「家賃、月600ドルですよね」
「一応チラシにもホームページにもそう書いてはいるけどな。でも家族から金取ろうとは思わねぇよ」
「家族?」
「あぁ。本当は無料にでもしたいんだけどよ、それじゃ気が済まないだろ?それに…まぁ、食費とか諸々厳しくはあるしな」

だから100ドルはもらうぞ、と決まりが悪そうな顔で頭を掻く虎徹に、バーナビーは冷たく言い放った。

「家族になった覚えはありません」
「ん?」
「そういう押し付け、本当に迷惑なのでやめてもらえますか」

手に握った紙幣がくしゃりと音をたてて皺くちゃになるのを、視界の隅で理解する。
拳が視界に入る程度には顔を俯かせたまま、なんだかこのまま去るのも気まずくて、バーナビーは虎徹の言葉を待った。

虎徹は優しい表情のままで口を開いた。

「わかんねぇな」

バーナビーが顔を上げて虎徹の顔を見ると、その表情は父親のそれを思わせるようなもので、薄暗い階段下の廊下にいるのにまるでその場所に日が差したような錯覚がした。

「一緒に食べて、寝て、笑って、そういう共同生活して……俺にはそれが"家族"であることとの違いがわかんねぇよ」

強いて言うなら血のつながりがないことくらいだろ、と笑って、虎徹はバーナビーの頭をくしゃりと撫でた。

「そうだバニーちゃん、今夕飯の買い物行こうとしてたんだけど。行って来てくれないかな」
「…このへんの地理がわかりません。…それに面倒臭い…」
「あぁ、それなら大丈夫だ。おーいキッドー」

最後のは聞かなかったフリをされ、バーナビーは肩を竦めた。
虎徹に呼ばれてすぐに二階から降りてきたホァンは、どうして呼ばれたのかを聞かないままに虎徹の手から財布を受け取る。

「夕飯の買い物だね?」
「そう。買うものはこのメモに書いたから。あとバニーちゃんも連れてってくれ」
「はーい!」

メモを取り出してホァンに手渡す虎徹に「僕が行く必要ないですよね」と言うと、「そういうこと言うなって」と笑われる。
バーナビーには理解出来なかったが、もしかしたらこれは理解しようとするのも無駄なことなのかもしれない、と頭の中で無理矢理結論を付けた。


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