「うんうん、それで?」
『そしたらね、ちゃんと2回転半跳べたんだよ!』
「凄いぞ楓ぇー!さっすがパパの娘だ!」

鏑木虎徹は、今幸せの絶頂にいる。
機嫌の良い娘から電話が掛かって来ているのだ。もしも今呼び出しが掛かったら、本気で犯罪者を殺しかねない。そのくらい幸せな時間を噛み締めている。

電話口から聞こえる、愛娘の声が本当に愛おしい。
それと同時に、電話をする俺の脇で拗ねた子供みたいな顔をしている相棒も本当に愛おしい。



先輩が電話を始めて、かれこれ30分近くなる。
別に用があって先輩の家に来ているわけではないし、それに何より相手からは見えない位置で見た限り、モニターに映る電話の相手は先輩の娘さんだ。放っておかれたって仕方ない。

今年で10歳になるらしいその少女はなかなか先輩に電話して来ないようで、その背景もあってか先輩はすごく幸せそうだ。

(……僕のこと忘れてるんだろうな)

夢中になって会話している先輩があまりにも幸せそうだったから、僕は少し彼に悪戯をした。

「楓は可愛いなー…っあ」

ソファーに座って電話で話す先輩の膝を、脇から手を出して擽ってみた。
すると、予想通り少し慌てたような声を出して先輩が僕の手を払いのける。

「ん?何でもない、足動かしたら痺れててさ」

電話の相手に何か聞かれたのだろう、先輩はごまかすように受け答えていた。
それ以降は何事も無かったように話し続ける先輩に、僕は彼に相手をしてもらうのは諦めようとソファーから立ち上がる。




立ち上がったその彼の服を、俺はつまんで引き留める。
ぐらりと重心を傾けてソファーに尻餅をついた彼に内心苦笑しながら、俺は楓に言った。

「ごめん楓、なんか電話の液晶モニターが調子悪いっぽくて楓の顔見えなくなっちゃったわ。こっちもモニター切るな」
『え?うん、わかった!』

俺の嘘には気付かないまま、楓も向こうでモニターを切る。
こちらからもモニターの電源を落とし、音声通話だけになったところで俺の横に座っていたバーナビーを抱き寄せた。

膝の上に、向かい合うように座らせると、バーナビーは身体の全体を俺に寄り掛からせる。
すっぽりと収まったその背を撫で付けると、彼は俺の肩口に頭を擦り付けるかたちで甘えてきた。

そのまま会話をしていると、楓が不意に話を切り出した。

『お父さんどうしたの?なんか声が嬉しそう』
「んー?当たり前だろ、楓と話せてるんだから」
『うん、でもさっきまでよりも嬉しそうだよ!』
「そうか?…そうかもなぁ」
『変なのー』

くすくすと笑う愛娘と、不器用に甘えてくる相棒に挟まれ、俺はしばらく幸せを噛み締めていた。




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