「ちょっと、それボクの肉!」
「え?わりーわりー」
「信じらんない!ずっと待ってたのに!」
あの、肉を取り合っている金髪の少女と黒髪の男が、ホァン・パオリンと鏑木虎徹。
「肉1つでいちいち騒がないでようるさいわね!私のあげるから静かにしなさいよ!」
長い金髪の、女子高生がカリーナ・ライル。
「いいの!?ありがとう!」
「カリーナももっと食った方がいいぞ」
追記として、ホァン・パオリンは見た目も中身も子供。それから、鏑木虎徹はデリカシーがない。
「カリーナ君はダイエット中かい?」
そしてもっとデリカシーが無いのがキース・グッドマン。あだ名はスカイハイ。
「うるっさいわね!」
「駄目よ、カリーナは今テスト前で気が立ってるんだから。ホントに男共は気が利かないわねぇ」
肌が黒く、体格の良い男性のような女性は、ネイサン・シーモア。この家の母的存在だろうか。
「みんな、肉はまだあるからおかわりしろよ?」
訂正。この家の母的存在はこのみんなの皿上の肉の減り具合に喜んでいる、アントニオ・ロペスだろう。
そして、一人で静かに肉を食べているのがイワン・カレリン。あだ名は折紙サイクロン。
…――覚えた。
バーナビーは、一日目の夜にして持ち前の記憶力で住人全員の名前を覚えることに成功した。
バラバラに会って自信満々に名前が言えるかと言うと話は別だが、みんなが揃っている場なら消去法の力も少し借りられる。だから名前くらいは言える。
「バニーちゃんも肉食えよ、アントニオんとこの良い肉なんだから」
その言葉にバーナビーが咄嗟に"バニーじゃない"と言おうとすると、それを遮ってカリーナが声を出す。
「ぷっ…アンタ、バニーちゃんって呼ばれてんの?」
「……バニーじゃなくてバーナビーです」
カリーナだけではなくこの部屋にいる全員に勝手に自分に付けられたあだ名を笑われ、バーナビーは顔を顰る。
腹いせに鍋にあった一番良い色の肉を箸で取って自分の皿におさめてやった。
するとアントニオに「肉を見る目がある」などと不本意に褒められ、さらに腹が立った。
(……早く新しい部屋を探さないと)
こんなに自由すぎて逆に窮屈な場所にいたら、ロボット工学に集中できない。一日も早く、尊敬している今は亡き両親に近付きたいのに。
ああ、出て行きたい。今すぐにでも。
バーナビーは不満をかみ砕くように力任せに肉を頬張った。