遠くから虎徹が雑談しているのが聞こえる。
揶揄なども交えてのその談笑は、傍目で見てもとても楽しそうなものだった。

気に食わない、とカリーナはあからさまに不機嫌な顔になる。
午前中のトレーニングメニューをこなし、カリーナはルームランナーから降りる。

バーナビーが虎徹と話しているのが面白くない。なにより、それで虎徹が楽しそうなのが気に食わない。

自分はバーナビーに嫉妬しているんだ、とは自覚していた。

2人の元へ小走りになって向かう。

「た、タイガー!」
「ん?あぁ、カリーナか」

吃りながらもカリーナが話し掛けると、虎徹はいつもの笑顔を彼女に向けた。
それだけで胸が締め付けられるくらいの喜びを感じるあたり、自分も溺れてしまっているなとカリーナは思う。

「タイガー…、あの、今、もし良かったら…」
「あ、虎徹さん、良かったら今から昼食ご一緒しません?」

バーナビーが、あからさまにカリーナの発言の邪魔をする。
"一緒に昼食に行かないか"と言えなかったカリーナが、バーナビーを睨みつける。

「なんで邪魔するのよ!」
「邪魔なんてしてませんよ」
「してるじゃない!」

小学生同士の言い合いのようなやり取りを始めてしまった2人の間で、虎徹はポンと手を叩く。

「そっか!よしよし、お前ら2人で行ってこいよ!」
「…え?」
「行きたいんだろ?俺は邪魔になんねーようにアントニオと行ってくるわ!」

じゃあな、と言って颯爽と駆けて行った虎徹の背を見詰め、カリーナとバーナビーは深く溜め息を吐く。

「あんたのせいで…」
「…あなたが来るからでしょう」

意気消沈した2人に追い打ちをかけるように、遠くで虎徹の声が聞こえる。

「なぁなぁアントニオ、あいつら最近仲良いみたいだぜ?両思いとか…」
立ち去っていく虎徹の声は、そこで聞こえなくなった。
しかしそこだけでも虎徹の誤解を聞き取ってしまったバーナビーとカリーナは、今度は萎えを通り越して憤りを覚える。

(あの男……ッ)









「大体タイガーは鈍すぎるのよ!」
「本当おじさんなんですから…」

カリーナが、ガン、と乱暴に置いたグラスが派手な音を立てる。

「ネイサン、なんかもっとおつまみ持って来て!」
「あら、やけ食い?太るわよ」
「構いませんよ、食べないとやってられません」

勢いに任せてどんどん食べ物を胃に詰め込んでいくカリーナとバーナビーに、ネイサンは苦笑する。

「今日は何があったの?」
「聞いてよ!タイガーがね!」

カリーナとバーナビーは、虎徹と上手くいかない日は決まってネイサンのバーに飲みに行く。
日々愚痴を言い合っているからか、ネイサンから見た2人はとても仲が良い。

「…でね!タイガーが私とハンサムが仲良いとか言い出して…!信じられないわよね!」
「全くです…虎徹さんにも変な誤解をさせてしまって」

酒を飲んでもいないのに、店の雰囲気や感情に寄ったらしいカリーナが弱音を吐く。

「…私もう自信ないよ…」

グラスの中のジュースの氷がカラカラと音を立てた。

「なんであんなに鈍い人を好きになっちゃったんだろう…」

カリーナの弱音を、バーナビーとネイサンは黙って聞いていた。

「タイガー、もう結婚経験あるし娘さんもいるし…諦めた方が良いのかな…」
「らしくないですね」
「え?」

そんなカリーナの独白に、バーナビーが口を挟む。

「そんな弱気なこと言うなんて、貴女らしくない」
「…ハンサム…」
「僕だって折角…仲良く、なれた相棒を人に取られるなんて嫌ですけど」

バーナビーが一口、グラスの中のドリンクを口に含む。
それから一息ついてから言葉を紡いだ。

「貴女が諦めるのを見るのはもっと嫌です」
「……」
「自信持って下さい、一応美人ですし」

完全に不意打ちだった。

カリーナはガタッと派手な音を立てて席から立ち上がる。

「い、い、今、なんて」
「…黙っていれば一応は美人ですよ、って」
「な、何よそれ…っ」

そんなカリーナを見てくすりと笑ったバーナビーが、グラスの中身を一気に飲み干してから席を立つ。

「お先に失礼します、ご馳走様でした」
「またね、ハンサムー!」

カリーナとネイサンに、くるりと背を向けて歩きだすバーナビーにネイサンは陽気な声で挨拶をする。
カリーナは挨拶するのも忘れて、ひたすら真っ赤になった顔を両手で包み込んだ。

「な、何よアイツ…、一言余計だし…!」
「ねぇ、アナタたち意外とお似合いじゃない?」
「どこがよ!」

カリーナは赤面させた顔をそのままに、グラスのジュースをがぶ飲みした。


なんで?どうして?
私はタイガーが好きだし、バーナビーだってタイガーのこと大切な相棒だと思ってるじゃない。だから私達はライバル。
ライバル、なのに。

アイツの言葉でこんなに動揺するのは、どうして?

ダメダメ、私はタイガーが好きなの。あんな嫌味な奴なんか好きじゃないんだから!





(―…ブルーローズをからかうつもりで言ったのに)
(どうしてあんなに緊張したんだろう)



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