ボロボロのドアノブに、ガチャリと鍵を差し込むと、部屋の中からガタガタという音がした。
その妙な物音に、バーナビーは眉を顰る。中に何かいるのかもしれない。

「…あの、おじさん」
「おじさんって言うのやめろよ」

ドアの前で、ドアに鍵をさしたままの状態で固まってしまったバーナビーの背後で、虎徹は首を傾げた。

「なんだよ?」
「…いえ、…何か音がしませんでしたか?」
「えー?気にしすぎだろ」

虎徹には聞こえなかったらしいその物音が気になったが、バーナビーは恐る恐るドアを開ける。

「じゃあ俺、夕飯作んねぇとだから行くわ」
「えっ…ちょ、待っ……」

部屋の中でした物音に不審がるバーナビーを置いて、虎徹は階段を降りて行ってしまう。
でも気にしすぎと言われたらそうかもしれない。そう思ったバーナビーはドアノブを回し、ドアを開けた。

靴を脱いで、部屋に入る。
少し前まではそこに入居者が居たのだというその部屋は案外綺麗で、生活感があった。
おかしい。
何故こんなに生活感があるんだ。

生活雑貨こそ何も置いてなかったが、入ってすぐのキッチンにあったのは直前まで使われていたような水道に、コンセントが差しっぱなしの冷蔵庫。
冷蔵庫の中は空だし、流し台が水で濡れているとは言え食器や食材なども何もない。
キッチンの向かい側にある小さなバスルームのトイレには桃色の芳香剤が置いてある。バスは使われた痕跡は無いし、シャンプーや歯ブラシといった備品も無い。
バスルームを出るとリビングに出た。小さな机しか無いその部屋は意外と広く、説明では確か6畳くらいの広さだと聞いた。

そこで気が付いたのが、和室だということ。
先程までいた虎徹の部屋は洋室だったが、どうやら貸し出している部屋は和室らしい。
キッチンやトイレの付いたバスルームなどは洋風で、そこのギャップも面白い。

リビングの壁の下の方にポスターが貼ってある。
  "ひったくりにご用心!"
女性がバッグを取られた瞬間のイラストが描かれているそのポスターが、足元に貼ってある。何故こんな低い位置に、と思ったがそれよりも、何故家の中に「引ったくり注意」なんていうポスターが、という疑問の方が強い。
家の中に貼るなら普通、火事とか空き巣とかの注意勧告では無いのか、と頭の中で考えながらバーナビーは部屋も見回す。
リビングにある小さな机と、それから新品の扇風機があるの以外は何も無い家だった。

バーナビーは、携帯電話や財布などの最低限のものだけを入れたリュックを床に降ろす。
教材などは後から施設から直接送られてくるはずだから、今はこれだけで良かった。
あとは今日か明日、マーベリックから届くはずの着替え等が来れば完璧だ。

家にあるのは、簡単なキッチン・トイレ付きバスルーム・6畳のリビング・それから見渡すとリビングの壁に付いている大きな押入れ。

バーナビーは、布団でも入っているのだろうかと押入れを開ける。
すると。

「…み、見付かってしまったか」
「ス、スカイハイさんどうするんですか…!せめてもっと布団にくるまっておくとか!っていうか誰なんですかこの人!」
「さ、さあ…えーと、どちら様だい?」

押入れを開けた状態で固まってしまったバーナビーに、先程玄関で会った白髪の少年と金髪の青年が声を掛ける。

「…あ…今日から…この部屋に住む者ですが……」
「あぁ…君だったか、…す、すまない…」
「そう、だったんですか…ごめんなさい、僕達…隣に住むイワンと…」
「キースだ…よろしく頼むよ…」
「え…あ…はい……」

そのまま何事もなかったように2人は押入れから出る。
何故そんなところに、いやそれ以前に何故この部屋に、と色々聞きたいことはあったのだが、バーナビーの頭は混乱してしまっていてそれどころではなかった。

「すまない、では…失礼するよ…」
「かたじけない…」

キースはバーナビーに頭を下げると、先ほど疑問に思っていたポスターの中に吸い込まれるように消えていった。
では拙者も行くでござる、とよくわからない話し方をするイワンも、ポスターの前に屈む。
ああ、また吸い込まれていくのかと呆然と思ったところでバーナビーは我にかえる。

「!!? ちょっと!!」
「は、はい!?」

ポスターに上半身を吸われた状態のイワンの腰を、バーナビーは掴む。
このまま進むべきか、それともバーナビーの方に戻るべきかとイワンはひたすら身をもがいた。

ポスターは、壁に開いた大きな穴を隠すためのカモフラージュだったのだ。

「なんですかその穴!」
「え…あ、僕たちの部屋に繋がってるんですこの穴」
「聞いてませんよそんなこと…初耳ですよ」

すぽん、とバーナビーの身体に寄りかかる形で部屋に戻ってきたイワンに、バーナビーは焦りの滲んだ顔と声を向ける。

「それはそうだと思いますよ、だって僕達このこと虎徹さんに言ってませんから」
「何してるんですかあなたたちは…」
「あれ?」

イワンがバーナビーのリュックに付いたピンを見て声を上げる。

「な、なんですか?」
「バーナビーさんって、もしかしてこのアカデミーの生徒だったんですか?」

ピンは、バーナビーが卒業した大学の校章だった。
その大学は、NEXTの実技や研究などを行う大学で、研究者を目指すバーナビーはマーベリックの薦めでそこに入っていたのだ。

「えぇ、まぁ…。ロボット工学をやりたくて。今年からそういう施設で本格的に見習いをやるんです」
「ロボット工学…」
「はい、両親がNEXTのような力を持つアンドロイドを開発してたんです。だからそれ引き継ぎたくて、アカデミーでは能力とかの勉強ばかりでした」

NEXTとして何か役に立ちたい訳ではなくてNEXTの研究をしたかったためにアカデミーに入ったのだと話すバーナビーに、イワンは輝いた目を向けていた。

「僕もそこに行ってたんです。結構前の話ですけど」
「せ、先輩ですか?」
「そうなるかな?…僕、一応NEXTだったので」

一応とはどういう意味だろうと、バーナビーは考えたが、それはすぐにわかった。

 でも人の役に立つのには向いてない能力だったから。普通の学校だとNEXTっていうだけで変な目で見られるから、それが嫌だっただけなんです。

そう話すイワンの顔は、少し翳っていた。



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