能力を発動させた虎徹に手首を掴まれる。
同じ能力で、しかも普段から腕力も同じくらいなのに、バーナビーがどう足掻いても手首を掴む虎徹の手が外れることはなかった。

「なん…で…っ」

焦り動揺とながら必死に逃げようとするバーナビーに対して、虎徹は涼しい顔をしていた。まるで、多少の力しか込めていないかのように。

「バニー、お前は良い暇つぶしになるな」
「…っ」

その言葉に、身体がぞくりとする。
口元に笑みを浮かべ続ける虎徹の目は、狂気に満ちていた。

「暫く遊んでやるよ」

虐待される小動物のような目で、バーナビーは弱弱しく首を振る。
こんなの虎徹さんじゃない、と目の前の人間を否定することしか出来なくなっていた。

その時、ぱしんと乾いた音が部屋に響いた。
バーナビーの左頬に平手打ちをした虎徹は、突然の出来事に呆然としているバーナビーに苦笑を差し込んだ。

「おすわり」

まるで、犬に命令するような口調で虎徹がバーナビーに告げた。

「同じ目線で話さないでくれないか?」

疑問系命令文、という単語が頭に浮かんだ。
バーナビーはまだ呆然とした顔で、それでも命令通りにその場にぺたりと座り込んだ。

「偉いな、ご褒美だ」

そう言って虎徹は、自分を見上げるその少し赤くなってしまった頬にもう一度平手打ちを入れた。

「ん?泣くほど嬉しかったのか?」

頭で処理しきれないほどの虎徹の変貌に、バーナビーがついに泣き出す。
声を上げて泣くことは出来なかった。
バーナビーが俯いたまま涙を溢し続けていると、虎徹が不機嫌そうな声で言う。

「顔伏せて良いって言ってねぇぞ。這いつくばったまま俺の顔を見ろ」
「…虎徹さ…」
「は?何で声出したんだ?喋っていいなんて言ってないよな?」
「…ごめ、なさ…」

涙でぐちゃぐちゃになった顔で見上げられ、虎徹は満足気な顔で笑う。

「声出ないようにしてやるよ。口開けな」

いつもと変わらない、眩しい笑顔で告げられた言葉は、やはり冷たいものだった。

そのとき、小机に置いてあった携帯電話が鳴る。
突然の電子音にはっとし、いつの間にか能力の切れた身体でぱっと立ち上がり携帯電話を手に取る。

同じく能力の切れた虎徹がそれを止めようとしたが、バーナビーの方が僅かに早かった。
バーナビーは携帯を手に取り、一気に部屋から走り出す。

ベッドルームに入り、鍵を掛けてそのままドアを塞ぐように座り込む。
少し息を落ち着かせてから、通話を開始させた。

「、もしもし」
『バーナビーか?斉藤だ!』
「斉藤さん!?」
『今タイガーの家に来たんだがいないみたいだ。バーナビー、彼の居場所がわからないかい?』







子兎が逃げ込んだ部屋の中から、声が聞こえる。

「今、僕の家にいますけど…」

「能力増幅の薬の副作用がドS化!?どういうことですか!?」

「どうやったら治るんですか…、…治すための薬を渡し忘れた!?」

「は、早く来てください斉藤さん!鍵開いてますから!」

戯れにそのドアを蹴ってみると、さらに焦ったような声でバーナビーは斉藤の名前を呼ぶ。
それが、すごく楽しかった。

――こんなドア、すぐにでも壊せてしまうが、斉藤さんがここに来るまではまだ十分時間があるだろう。それなら、もう少しじわじわと怖がらせた方が楽しいかもしれない。

虎徹はにやりと笑いながら、もう一度ドアを蹴った。





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