開発中の薬は実験段階で失敗が確認された。
その薬は能力が上がる作用があるもので、その作用は正常に発動した。

しかし、反作用が強すぎた。
その反作用は、服用した本人に危害をもたらしたりなどはしない。でも、実用するには少し気が引ける作用だった。

今回の実験の被験体であるワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹を帰らせ、斉藤は深い溜め息を吐く。

(彼は1人暮らしだと聞いているし、誰も被害に遭わないと良いけど…)




虎徹が向かった先は、斉藤の予想を超えて、自宅ではなくバーナビーの家だった。
数日前からこの日に会うのを約束しており、虎徹は自宅に戻らず直接バーナビーの家にその足で向かったのだ。

インターホンの音に、虎徹が来たと確信したバーナビーがドアを開ける。

「虎徹さ…」
「遅い」
「え?」

ドアを開けるなり、その前に立っていた虎徹が不機嫌そうに口を開く。

「遅い。開けるのが」
「あ…すいません」

軽く頭を下げると、虎徹が家の中に入っていく。
普段そんなことを言われたら絶対家の中には入れないのだが、この猛暑だ。暑さで気がやられているのだろう。そう考えたバーナビーは特に何も感じずに彼を家に上げた。

「今日暑いな」
「そうですね…」

クーラーを付けるのを忘れていた。
気温の変化に鈍いバーナビーは、はっとしてリモコンを操作しクーラーを付けた。そう言われれば、部屋の中がとても暑くなっている。

すると、家に入るなりキッチンに向かって消えた虎徹が、お湯だけで出来るタイプのインスタントコーヒーを片手に戻ってくる。

「ほら、コーヒー。一気に飲め」
「え…え?」

勢いで受け取ってしまったそのコーヒーは、カップを通しても手を火傷させてしまいそうなくらい熱い。冬なら喜んで飲むと思うが、夏のこの暑さの中で飲もうとは思えない。

「折角ですけど、今は…」
「は?殴られてぇの?」

遠慮します、の言葉が、虎徹の言葉に掻き消される。

「言われたこともできねぇのか?」
「え…、…あ…」

気が立っているんだ。
そう自分を納得させて、バーナビーはコーヒーに口を付ける。
座る暇さえも無く、「早くしろよ」と言うような虎徹の視線に耐えかね、その場に立ったまま恐る恐る一口啜る。
そのあまりの熱さに、バーナビーは身を引いた。

「…熱っ」

その拍子に少しコーヒーが床に零れてしまった。
あ、とバーナビーが声を出し、コーヒーカップを小机に置いて、ティッシュを手に取り床に屈む。

すると、その屈んだ肩に虎徹の足が乗った。否、踏まれたと形容した方が良いかもしれない。

「拭かないで舐めろよ」
「…っ、あなた自分が何を言ってるのかわかってますか!?」

そろそろ「気が立っている」では済ませられなくなり、バーナビーは声を少し荒げる。
すると虎徹は不敵の笑みを浮かべる。バーナビーはその目に背筋が凍るのを感じた。

「へー、口答えするんだ?」
「……どうしたんですか、虎徹さん」

その問いかけは聞こえなかったかのように無視される。

「何回も言わせないでくれねーかな。舐めろっつってんだよ」

バーナビーの髪をくしゃりと掴んで、屈んだままのバーナビーの頭を床に付けようとする。
力任せに上から押され、バーナビーは床に両手を付いた状態で能力を発動させた。
普段は感じない危機感に、半ば身体が無意識で発動させたと言っても過言ではなかった。

青白い光を身体から発しながら、バーナビーは虎徹の手を払いのけて一気に立ち上がる。
それでも、虎徹は笑っていた。

「バニー、同じ能力の俺達が喧嘩しようとするならな」

身構えるバーナビーの目の前で、遅れて虎徹も能力を発動させる。

「先に発動させた方が負けだ」
「…っ」




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