「なぁ、俺達って付き合ってんだろ?」
「…なんです急に」
「いやー…」

自宅のソファーに、半ば寝そべるような体勢で座り、虎徹は夕食の後片付けをするバーナビーに話しかけた。
頭をわしわしと掻きながら虎徹は言葉を続ける。

「付き合ってるっぽいこと全然してないしさー」

虎徹とバーナビーは、しばらく前に正式に付き合い始めた。
今まではなんとなく好きあっていただけなのだが、その日から2人はもうお互いを「恋人」と呼べる関係になった。そのはずなのに。
バーナビーの態度が、付き合いだす前よりもぎこちなくなっているのだ。

キッチンで淹れたばかりの紅茶を2つのティーカップに入れ、片方を虎徹に手渡しながらバーナビーもソファーに腰掛ける。

「付き合ってるっぽいこと…、…って、どういう?」
「そりゃ…デートしたりとかさぁ」

そこまで言うと、バーナビーはあからさまに嫌そうな顔をした。

「なんでですか」
「え…デート、嫌?」
「…別にそういうわけじゃないですけど、どうして急にそんなこと」

虎徹はそのバーナビーの言葉に、眉を寄せて答える。
まだ熱い紅茶を飲もうとして、その熱さに虎徹はひとまず飲むのを諦めティーカップを机に置いた。

「どうしてって、だって付き合いだしてからバニーちゃん一回も好きだって言ってくれないし」
「……ちゃんと好きですよ」
「んー……」

なんか違う、と呟きながら虎徹はソファーに身を横たえる。
一番端に座っているバーナビーの顔を下から覗き込むようにしていると、バーナビーが動揺からか紅茶を少し溢した。

「…っあ」
「おいおい、大丈夫か?」

バーナビーもティーカップを机に置き、上から虎徹を見つめた。

その日はそれ以上話をしなかったが、その翌日だった。
バーナビーから虎徹の携帯に、妙なメールが届いたのは。



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「…なんだ、これ」

昨晩は夕飯を食べたあと自宅に帰ってしまったバーナビーから、朝、メールが届いたのだ。
起きて、朝食を食べ、仕事に行くために身支度をしている時だった。

メールに羅列する不可解な文字列は、まだ続いている。

4E0D56687528306753E34E0B624B3060306881EA52063067308281EA899A305730663044307E305930023060304B30894E0A624B304F4F1D3048308B30533068306F51FA6765307E305B3093304C3001305D308C306730823042306A305F304C597D304D306A3093306730593002304430643082304430643082884C52D5304C308F304B308A306B304F304F3066305430813093306A305530443002

何かの暗号だろうか。
虎徹には全く解読出来なかった。


「…あのなぁ」
「はい?」

とりあえず出社しオフィスに入れば、既に席に着いて仕事を始めているバーナビーと目があう。
開口一番で出た言葉は、挨拶よりもその気の抜けた言葉だった。

その声に機敏に反応し、虎徹の方に振り返ったバーナビーが首を傾げる。
虎徹は席に座って、質問を続けた。

「暗号か?コレは。2進数?」

携帯電話を開いて、バーナビーから送られてきたメールを彼本人に突き付けるように見せる。

「なんで2進数になるんですか。16進数ですよ」

すると、呆れたような声で呆れたような言葉が返ってきた。どっちにしろ暗号じゃないかと思ったがそれは言わずに、虎徹はバーナビーとの会話を続ける。

「俺全然読めねーんだけど」
「読めなくていいです」

予想外の受け答えに、虎徹は「はぁ?」と間の抜けた声を出してしまった。

「読めなくていいって…メールだろ?用件なんなんだよ」
「…別に大したことじゃないです」

バーナビーはそう言うと、ふいと顔を背けてしまった。

虎徹がそのあともメール画面を見詰めていると、バーナビーが不意に口を開いた。

「……あともう一つ言うと、それが僕の限界です」


そう呟くバーナビーの顔が真っ赤だったから。
虎徹は昨日の自分の言葉を思い出して苦笑した。

――どうしてって、だって付き合いだしてからバニーちゃん一回も好きだって言ってくれないし。

もしかしてこれは。
(…ラブレター、的な…アレか)

「お前さ」
「…なんですか」
「わかりにくいんだよ」

苦笑を交えながらそう言うと、バーナビーは恥ずかしそうに顔を歪めてこちらを睨んだ。

「これが限界なんです」
「わかったわかった」

そう言って笑いながら、その暗号めいたメールに保護を付けて、虎徹はパソコンの検索エンジンに「16進数 変換」の文字を入力した。





直接伝えられなくてごめんなさい。好きです。

不器用なのは自覚してます。それでも僕は僕なりにあなたに伝えてるつもりなんです。好きです、愛してます、虎徹さん。どうしたら伝わりますか?





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