「バニーちゃん、それは飲み過ぎだ。もうやめなさい」
俺はバーナビーの手からワイングラスを取り上げ、そう注意した。
(あーあ、これじゃ今夜はうちに泊まってもらうしかないな)
そんなことを考えていると、バーナビーは至って冷静に返事をしてくる。
「…先輩の方が飲んでるじゃないですか。それにまだ僕は酔ってません」
「ダメだ。まだ子供なんだから酔うほど飲んだらダメだ」
そう言うと、バーナビーはむすっと拗ねたような顔をする。
「子供じゃありません」
可愛く唇を尖らせてそう言うバーナビーの顔には、幼さが残っている。
ほら、やっぱり子供だ。
「そういうところが子供だっつってんだよ」
「……っ、わかりました、やめます」
最近、バーナビーは"…したら子供だ"と言えば、絶対にそれをしなくなる。
それ程までに子供扱いされるのが嫌なのだろう。
自分でそうやっておいて矛盾するが、そんな素直で従順なところも子供っぽい。本人には絶対に言わないが。
「おいで」
そう告げれば、こちらを向いて素直に膝に乗ってくるバーナビーの頭を撫でる。
向かい合った状態で、蕩けた目を向けて来るバーナビーが堪らなく可愛くて、俺は頭を撫で続けた。
「…子供扱いしないで下さい」
「可愛いから悪い」
理不尽な理由をつけて頭を撫でつづける俺の手を、バーナビーは払いのけた。
あれから、俺は一応バーナビーを恋人として見ている。
子供っぽいとは思うが本気で子供だなんて以前ほどは思っていないし、何よりちゃんと恋愛対象として見ている。
が、それでもやはり彼は後輩であり年下であり、俺から見たらやはり大人っぽさは感じられない。
要するに、彼に対して「大人の恋愛感情」は全く感じていないのだ。
「何を考えているんですか」
完全に拗ねた表情で、バーナビーは俺の目を覗き込んでくる。
「んー?バニーちゃん可愛いなって」
「やめて下さいそういうの」
咄嗟に出たのは拒絶の言葉。
俺はやっぱりコイツは子供っぽいな、なんて悠長に苦笑いしていた。
油断していたのだ。
バーナビーは、顔を赤らめさせ、俯きがちに眉を寄せて。
「…恥ずかしい、じゃないですか…」
完全に、不意打ちだった。
伏せられた瞼から伸びる睫毛は長く、潤いのある唇は赤く。
とても、艶やかだった。
「……っ」
俺は一瞬息を詰まらせ、それからいやいやいや、と首を振る。
(なんだよ、なんでこんなに…)
「…どうしました…?」
伏せがちの瞳で見据えられ胸が高まるのを感じて、今度こそ確信した。
(…バニー、色っぽい…)
バーナビーが見せるその表情は、明らかに子供ではなく大人だった。
俺がバーナビーに触れるだけのキスを落とすと、彼は妖艶な笑みを浮かべる。
「先輩?」
「…なんでもない」
そう言えば完全に凭れ掛かってくるバーナビーの体温に、自分の鼓動が早まるのを実感して。
そうか、自分は本格的に惚れてしまったのかと、俺は漠然と思った。