「夕飯作りに行っていい?」

トレーニングルームでランニングをしていたバーナビーが、手すりに掛けてあったタオルを手に取ったのを見計らって声を掛ける。
タオルを首に巻いたら、それはトレーニング終了の合図だ。

「食材何もありませんよ」
「ん、行く時に買ってくから大丈夫」
「…わかりました」

これは、最近頻繁に行われるやり取りだった。
俺が"夕飯作りに行っても良いか"と聞くのは、バーナビーの元気が無いとき。感情は表に出さないタイプだから、大抵の人はバーナビーが元気が無くても全く気が付かない。でも深く付き合ってしまってからというもの、俺には彼の感情が手に取るようにわかるようになってしまったのだ。

何を言われても、何をされても顔色1つ変えずに振舞う彼を見ているうちに、全てがわかるようになっていた。
バーナビーだって人並みの感情は持っている。もしかしたら人並以上かもしれない。
悲しむべきところでは悲しむし、傷だって付いている。バーナビーはそれを隠すのが上手いだけだ。他人相手にも、自分相手にも。

「何食べたい?」
「どうせチャーハンしか作れないんでしょう?チャーハンで良いですよ」

多分、バーナビーは俺のチャーハンが好きだ。
自分でもこれは自意識過剰なんじゃないかと、そう疑ってしまうくらいに、チャーハンを食べる時のバーナビーの顔はとても柔らかい。
馬鹿の1つ覚えと言われたその手料理を好きでいてくれるのは嬉しいし、自分も好物なので同じものを食べられることが何より嬉しかった。
でも、少し意地悪をしてみる。

「何個か他のも作れるようになったよ、俺」

パスタとか、あと日本料理なら何種類か。と続けると、バーナビーの表情が少し曇る。ほら、やっぱり。

「…チャーハンで良いって言ってるでしょう」
「え?でも飽きない?」
「飽きません。毎日だって食べられます…、……」
あ、口が滑った。
バーナビーが咄嗟に口を閉じるが、もう遅い。聞いてしまった。これは嬉しい誤算というやつだろう、少しチャーハンに拘るのが見れたら良かっただけだったのに。

「そっか、じゃあチャーハンにしよっか」
「…はい」

気まずそうに頷くのが可愛くて、自分よりも僅かに身長が高い彼の頭を撫で上げた。何するんですか、なんて言って俺の手を叩くのも愛おしい。





なんでも店屋物で済ませていたバーナビーも、俺と付き合うようになってから買い物が出来るようになっていた。
当たり前のことなのだが、バーナビーは当たり前のことが出来なかったのだ。

行動だけではない。当たり前に喜ぶことも、当たり前に泣くことも、当たり前に幸せをかみ締めることも、何もかもが出来なかった。いや、知らなかった。

「これが一番安いか?」
「何言ってるんですか、このピーマンは10個、こっちのは15個入ってて1$しか違わないじゃないですか。値段だけならそうですけど、容量も考えればこっちのほうが…、…なんですか?」
「いやー…」

野菜の質と量と値段を、真剣な表情で比較するキングオブヒーロー。
全く結びつかないものだ。滑稽にも見えるかもしれない。

(でも、俺はこっちのバニーちゃんの方が好きだなぁ)

「何笑ってるんですか?」
「バニーちゃんは買い物が上手いなと思って」

そう言うと、バーナビーは"街のアイドル"らしからぬ、微妙極まりない表情を浮かべる。

「あまり嬉しくないのですが」
「悪い悪い、でもこういう…庶民的?なバニーちゃんも好きだよ」

好きだと言えば、うっと言葉を詰まらせて赤面するバーナビーに、思わず微笑む。
澄ました、テレビ用の顔ではない、こういう自然な顔が俺は好きだ。

バーナビーが笑うことは滅多に無いが、でも笑顔が一番似合うと俺は思っている。







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