戯れにテレビのチャンネルを回していると、恐怖映像特集という番組が放送されていた。
何人かの司会者と、ゲストは数人の男性タレント、そして多数の女性タレントで構成されている、それ。
「バニーちゃーん、恐怖映像っていうのやってるー!」
俺は自分の家のソファーに座ってテレビを見ながら、キッチンで皿を洗っているバーナビーに声を掛ける。
バーナビーはこっちを見ないまま、素っ気ない返事をする。
「見れば良いじゃないですか」
「バニーちゃんも一緒に見ようよ」
バーナビーは、その言葉にピクリと肩を動かして、目を俺に合わせてきた。
「…僕は暇じゃないので。これ洗ったら帰るつもりです」
「………あれー?」
その挙動に、俺は感づいた。
「バニーちゃん、もしかして怖いの苦手ー?」
「苦手じゃありません!」
茶化すようにそう言えば、彼はムキになる。
さっきの仮定は、ほぼ確定だろう。バーナビーは怖いのが苦手だ。
「じゃあ一緒に見ようよ、ほらもう始まってるじゃん」
「…わかりました」
俺の横に位置する場所にちょこんと座って足を上げ、バーナビーはソファーの上で所謂「体育座り」の体勢をとった。
怖さが軽い順からランキング方式で次々と放送されていく映像を見るフリをしながら、俺は密接しているバーナビーの体温に集中する。
いきなり叫んだり、人が出て来たり。
様々な形式の恐怖映像は、代わる代わる俺達視聴者に刺激を与えた。
そして、俺は気が付いた。
心臓に悪影響な「そのシーン」に来ると、バーナビーは声を出したりはしないがビクッと肩を跳ねさせる。
そんな彼に加虐心が芽生えてしまったのは、言うまでもないだろう。
次の映像が始まった時に、俺はさりげなくバーナビーの背後に手を回す。そして。
映像が心霊現象を映し出したその瞬間、バーナビーの俺と密接している側とは反対側の肩に手を置いた。
「…ふぁあああ!!」
手を置くと同時に奇声を発しながらソファーから立ち上がり、バーナビーは身体を俺の方に向けてそのまま動かなくなった。
「……」
ずっとその状態でいるバーナビーが流石に心配になり、俺は彼に声を掛ける。
「………」
「バ、バニーちゃん?」
「………」
「バニーちゃんごめん、怖かったな」
立ったまま放心してしまったバーナビーは、それからしばらくした後俺を睨みつけた。
「…な、なにするんですか!」
「ごめん、悪かったって…そんな怖がると思わなかった」
「こ、怖がってなんかいません。驚いてあげただけです」
この期に及んで強がるバーナビーは、俺の膝の上に座った。
そして俺の腕をとって、自分の身体に巻き付ける。俺はされるがままになっておいた。
「怖いからじゃありませんよ、気まぐれです。なんとなくです」
「はいはい」
それから俺は、番組が終わるまで、映像の途中で時折身体を跳ねさせるバーナビーを膝に抱き抱えながら見ていた。
見終わった後、少し意地悪をして言ってみる。
「あれ?見たらすぐ帰るんじゃなかったっけ?」
「……先輩が怖がってそうなので特別に泊まってあげます」
いつまでも意地を張りつづける彼に、ここで俺は大丈夫だと言えば1人で計り知れない恐怖と戦いながら帰宅するのだろうな、と思い、彼の申し出を了承する。
それから。
「バニーちゃん、幽霊ってエロいこと考えてると出て来ないんだって」
「……本当ですか?」
「本当。だから、さ」
夜は、まだまだ長い。