「いらっしゃい」

宿の近くにある和食の料亭に入ると、中から渋くも良く透る声が掛かった。
外観は勿論、内装もとても上品な造りになっていて、席はカウンター席と座敷とがあった。

「バニーは椅子が良いよな?」
「…すみません、正座はちょっと」
「だよなあ」

畳の座敷は正座をしないと座れないので、バーナビーには辛いだろうと虎徹は配慮する。
実は昨日、バーナビーは宿で夕餉を食べていた時に足を痺れさせて痛がっていたのだ。

すぐ近くで店主が料理をしているのが見えるカウンター席に2人で並んで座ると、奥から暖簾を上げて店員が水と品書きを運んでくる。
軽く礼を述べそれを受け取り、虎徹は品書きをバーナビーに手渡した。

「何にする?」
「……、…………」
「あ」

虎徹は、バーナビーの怪訝そうな表情にはっとして品書きを見る。
品書きは全て日本語で、しかも行書体だ。バーナビーが読めるわけがない。

「あー、饂飩とか蕎麦とか、あと茶漬けなんてのもあるな…って、バニーちゃんわかる?」

バーナビーの顔からして、全くわかっていないようだ。
説明しようと虎徹が口を開くと、同じタイミングでバーナビーも口を開いた。

「……先輩は何にします?」
「俺?んー…笊蕎麦にしようかな」
「じゃあ僕もそれにします」

説明を受けることなくメニューを選んだバーナビーは、品書きを近くで控えていた店員に渡す。

「え、わかんないもん頼んで大丈夫?」
「わかってる先輩がわざわざ不美いものは頼まないでしょう?」
「それはまぁ…。じゃあ笊蕎麦2つお願いします」

カウンターにいる店主に注文すると、彼は蕎麦を打ち始める。注文してからわざわざ手打ちしてくれるらしい。
しかし蕎麦が来るまで暇なんじゃないだろうか、と心配にもなり虎徹はバーナビーの様子を横目で窺った。
すると。

「…バニー、面白い?」
「え、あ、…はい」

横には、店主が蕎麦を手打ちする様子を興味深そうに見詰めるバーナビーがいた。
それは何となく意外で、虎徹はバーナビーの顔をまじまじと見てしまった。

「バニーちゃんが日本の文化に興味持つなんて思ってもみなかった」
「…なんか失礼じゃありません?」
「あぁ悪い悪い、でもホントに意外」

虎徹の言い方が気に障ったらしいバーナビーが不機嫌そうに眉を寄せ、口を軽く尖らせる。
へらへらと笑いながら謝罪し、虎徹はバーナビーの頭をよしよしと撫でた。
もちろんすぐに叩き落とされたが。




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