Hasty love is a sudden vengeance
(ねぇ、虎徹さん、)

Hot love, hasty vengeance
(僕は貴方に釣り合う人間なんでしょうか)






彼女が旅立つ2人に贈った言葉は、「さようなら」ではなく「行ってらっしゃい」だった。
その言葉だけで涙ぐむほど涙腺の弱化したバーナビーを引き連れ、虎徹はシュテルンビルトに戻っていた。

それから数ヶ月、しばらく何事も無く過ごしている。
今まで通り一緒に仕事をし、頻繁にバーナビーは虎徹の家に帰り、たまの休日には2人で仲良く出掛け。

ただ、そこには約束が前提として存在していた。
マーベリックと交わした約束、「バーナビーには一切触れないこと」だ。

たまにバーナビーから虎徹に寄り添ってきたり、触ってきたりはするのだが、約束を交わした時から虎徹は一切バーナビーに触れていない。

今だって、虎徹の自宅のソファーに座って新聞に目を通す虎徹の横に座って彼にもたれ掛かっているバーナビーに、虎徹が触れることはない。
寂しさを埋めるように、虎徹の肩に自分の頭を甘えるように擦り付けるバーナビーに、虎徹は苦笑する。

「構ってほしいの?」
「…そ、そんなんじゃありません」

そう言ってみると、ぱっと頭を肩から離すバーナビーは、まだ素直になりきれていないようだ。
虎徹にとってはそんなところが可愛いのだが。

「…あの」
「ん?」

唇をぎゅっと噛み締めたバーナビーが突然こう切り出した。

「先輩は、寂しくないんですか」
「え?」
「…僕に触れなくて…って言うのか…あの…」

あぁ、と虎徹は納得した。
そして、この質問はつまりバーナビーが"触ってくれないのが寂しい"と言っているようなものだった。

虎徹が思わずニヤける。

「バニーちゃんは寂しいのか?俺に触ってもらえなくて」
「……まぁ…それは…」

決して否定しないその頭を、つい癖で撫でそうになる。
そんな虎徹に、バーナビーは寂しそうに笑った。

「気付かなくて良かったのに」

何に、とは聞かなかった。
無意識のうちに撫でようとしたことに、気付かなければ良かったのにと、バーナビーは言っているのだ。

「気付いてなかったら、触ってるところだったろ?」
「触らないんですか?」
「だから、触れないんだっつの」

その言葉に、バーナビーはつんと口を尖らせる。
どうにかして触られたいらしいバーナビーに苦笑しつつ、虎徹は彼に言い聞かせる。

「あのな、挑発されると触りたくなるからやめてくれねーか」
「…」
「そんな顔してもダメー」

歳相応、それかそれよりも下に見えるくらいの顔で拗ねきったバーナビーが、虎徹に背を向ける。

「触らないんだったら、こうしたらもう何にも出来ないんですね」

言葉の足りないそれでも、虎徹には意味が通じる。
要するに、自分が背を向けたところで、自分を触れない虎徹には、自分を虎徹の方に向けることもできないのだ、とそう言いたいのだろう。

「…バニー」
「…ごめんなさい」

ぼそりと呟いたその声が、僅かに震えていた。
まさか、と虎徹は呼びかける。

「…バニー、泣いてる?」

その問いかけには、何も返答が無かった。
虎徹には、バーナビーが何を謝っているのか見当が付かなかった。無茶を言ってきたことか、それとも今更別れようとでも言い出すのか。

「…なんで泣いてるの?バニーちゃん」

すると、バーナビーは予想に反したことを言った。

「だって…こうなってるのも僕のせいなのに」
「こうなってるって…触れないこと?」

虎徹が聞き返すと、バーナビーは背を向けたままコクリと小さく頷く。

「お前のせいじゃないだろ?」
「僕のせいです」

誰のせい、というものではないだろう。虎徹はそう考えていた。
これは誰のせいでもないし、もし誰かのせいにするなら言っては悪いがマーベリックのせいであり、何をどう考えても、少なくともバーナビーのせいではなかった。

「…僕のせいなのに、先輩より先に僕が我慢出来なくなってて」

そういうことか、と虎徹は納得する。

「先輩は僕のせいで頑張ってくれてるのに、僕は何の枷も無いのに、でも耐えられなくなってて…ごめんなさい…」
「あー…寂しい?」
「寂しいです」

未だに虎徹の方に体を向けないまま、バーナビーはぐずぐずと泣き続ける。
すると、一旦泣いた勢いなのか、バーナビーからどんどんと弱音が零れだした。

「…接触が無いと、本当に愛されてるのかわからなくなるというか…そもそも僕なんかが先輩に釣り合うのかって考えちゃって…僕なんて表面だけの人間ですし…先輩はみんなに愛されてますけど僕には先輩しかいませんし…まず恋愛なんて初めてだから愛が重かったり…」
「バニーちゃん、こっち向いて」

箍が外れたように弱音を穿き続けるバーナビーの言葉を断ち切って、バーナビーの口を止める。それでも口が止まっただけで虎徹の方を向こうとはしない。

「バニー、こっち向きなさい」

少し語調を強めれば、渋々といった感じでやっと虎徹の方を向いたバニーの目は、それこそウサギのように赤くなっている。

「バニーちゃん」
「…はい」

虎徹が、バーナビーに向かって腕を広げる。
それから、首を少し傾けて微笑む。

「ぎゅーってして」

バーナビーが、目を見開く。
その微笑みは、大人のそれだった。

「…先輩…っ」
「バニー、大丈夫だ、愛してる」

勢い良く虎徹の腕に収まったバーナビーが、虎徹を強く抱きしめる。

「抱き返してやれなくてごめんな」
「いい…です…」

その言葉だけで十分です、と呟くバーナビーの声が、自分に無理矢理言い聞かせているようにも聞こえた。

Sound love is not soon forgotten
(大丈夫だ、バニー)

Likeness begets love
(俺だってお前と同じくらい寂しいんだから)




[ 12/20 ]

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