「入ります、マーベリックさん」

豪華な扉をノックすると、中から入りなさいと声が掛かる。
事前に連絡してあったためかちゃんと人払いがしてあるその部屋の扉を開け、バーナビーと虎徹は中に入っていった。

「バーナビー、元気だったか?」
「はい、マーベリックさんもお元気そうで」

他人行儀な挨拶を交わし、2人がお互いに向き合うかたちで高級そうなソファーに座る。

「君も、座りなさい」
「あ、はい…」

部屋に入ってからその場に立ち尽くしていた虎徹に、マーベリックが声を掛ける。
普段にはない緊張をしながらも、虎徹は当たり障りの無さそうな返事をしてバーナビーの隣に腰掛けた。

「…鏑木虎徹です、いつも息子さんにお世話になっております」
「あぁ、本名は確かそうだったね」
「…それで、あの…」

いつもの様子からだと考えられないくらいに、虎徹は歯切れの悪い話し方をした。
それに反して、事前に「挨拶に行く」とバーナビーから連絡を貰っていたマーベリックは、とても余裕のありそうな態度で対応している。

"変に前置きせずに、単刀直入に言ったほうがいいです、あの人は"
ここに来る途中でバーナビーから聞いたアドバイスを思い出し、虎徹はバッと立ち上がる。
今時同性結婚は全く珍しいことではないのでその点で変な気は遣っていないのだが、挨拶の方法がわからない。娘さんを僕に下さい、なんていうベタな台詞も、使って良いものかどうか悩まれる。

悩んだ挙句、昔友恵の両親にしたように、虎徹は床に膝をついて言った。

「…息子さんと、結婚させて下さい」

お願いします、と土下座するかたちで虎徹はマーベリックに頼み込む。
バーナビーはその横で、心配そうにマーベリックと虎徹を交互に見ていた。
マーベリックは、あまり気乗りしなさそうな顔をした。

「この子は私の宝物なんだ。そう簡単に君に譲ることは出来ない」
「必ず幸せにしてみせます」

虎徹はひたすら土下座の体勢を続け、マーベリックはただただそれを見下ろしている。両方とも一歩も引く気配は無かった。
それはそうだろう。手塩にかけて育てた一人息子と結婚させろと頼んでいるのだ。

「…悪いが、君がバーナビーを幸せに出来るとは思えない」
「…っ、なんでですか」

冷え切ったマーベリックの声に、虎徹が勢い良く顔を上げる。
マーベリックの顔に表情は無く、ただただ淡々と言葉を紡いでいた。

「金はあるのか?それに君にはもう子供がいると聞いている」
「…それは」

マーベリックに言われたそれは、確かに事実だった。
生活に困るほど金が無いわけではないし、仕事が仕事だけあってどちらかというと持っている方だとは自分でも思う。しかし、マーベリックが紹介する人となればかなりの資産家だろう。となると、その人の方が金を持っているに決まっている。

ぎゅっと唇をかみ締める虎徹を見下ろしながら、マーベリックは続けた。

「私がもっと良い人を紹介すれば、今後金に困ることなど有り得ない。それにヒーロー同士で結婚なんて、相手にいつ何が起きるか…」
「もっと良い人なんていません」

そのマーベリックの言葉を遮ったのは、バーナビーだった。
さらにバーナビーはソファーから立ち上がり、虎徹の横に正座する。

「…バーナビー」
「マーベリックさん、僕からもお願いします。この人と結婚させて下さい」

床に手をついて深々と頭を下げるバーナビーの肩を掴み、マーベリックはバーナビーに顔を上げさせる。
それでも、無理やりでも土下座をし続けるバーナビーに、虎徹も一緒になって土下座をした。

「何を言っているんだバーナビー、私が良い人を紹介する、そうしたら君はもっと幸せに…」
「僕はもうこの人以外と結婚するなんて考えられません」
「……」

しばらく2人して土下座を続けていると、マーベリックがついに折れた。
顔を上げてソファーに座りなさい、と言われ、虎徹とバーナビーは顔を見合わせてから言葉に従った。

「わかった。でも条件を出す」
「条件?」

マーベリックは虎徹の目をじっと見つめながら続けた。

「1つは、式を挙げるのは最短でも半年後だ。勿論それまでは籍も入れてはいかん」
「…はい」
「2つ目。それまで、指一本としてバーナビーに触れるな」
「!?」

真剣なまなざしで提示されたその条件に、虎徹は息を呑む。

「マーベリックさん、それはどういうことですか?」
「そのままの意味だ。結婚式までに、鏑木虎徹が指一本でもバーナビーに触れたらすぐにこの話は無かったことにする。家の中までとは言えないが、君達2人を監視させる」
「…そんな…っ」

うろたえるバーナビーに対して、虎徹は良い返事をした。

「わかりました。そうさせてもらいます」
「先輩…」

半ば絶望しているバーナビーの横で、虎徹には妙に気合が入っていた。





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