「もう、仕事以外であなたと会うのは終わりにしたいんです」

カタンと乾いた音を立て、バーナビーは席を立った。

前々から予約してあった高級レストランで、虎徹とバーナビーは食事をしていた。
夜景が綺麗なこのレストランは全室が全て個室になっている。普段は顔出しをしている有名人とだけあって、プライベートでもサイン等を求められる事の多いバーナビーへの配慮だ。

「すみません、僕もう今日は帰ります。本当にごめんなさい」
「っ、バニー」

席を立ち、部屋から出ようとするバーナビーの腕を虎徹が掴む。
バーナビーはそれを振りほどく訳でもなく、これから降り懸かるであろう虎徹からの言葉を待つかのようにただその場に立ち尽くした。

「バニー、あのさ、今のって、本気?」
「…僕はいつでも本気です。僕は、本気であなたの事を愛してます。だから」

もう一度言います、と前置きをし、バーナビーは虎徹に向き直る。

「僕はもうあなたと会いません」
「バニー…なんでそう繋がるの?」

向かい合った状態で、虎徹はバーナビーの腕を掴んだまま話の続きを促す。
バーナビーとは今までずっと良い関係でやってきたし、今だって良い雰囲気で食事をしていたところなのだ。
付き合い始めてから、多少喧嘩したり擦れ違ったりが重なることはあったが、本当に上手くやってきた。それなのに。

「あなた、もう結婚しているじゃないですか。僕は…トモエさんには勝てません。だから、諦めたんです。」
「………」
「あなたも、罪悪感があったりするんじゃないですか?奥さんを差し置いて、僕なんかとこんな関係になって」

確かに、罪悪感はあった。
日を重ねるにつれて薄まっていく友恵との思い出、疎かになる家族との絆。

「無理を言って付き合って頂いて、…短い間でしたが、本当に幸せでした。ありがとうございました」
「…バニー」
「仕事の時は、また仲間として見てくれたら嬉しいです」
「バニー、」
「本当に、…本当に幸せでした、虎徹さん」
「バニー!!」

今にも泣き出しそうな顔で次から次へと言葉を紡ぐバーナビーに、虎徹は強い口調で名前を呼んだ。
思い掛けず大きい声になってしまい、バーナビーも驚いたように目を見開いている。

「聞いてくれるか?」

優しく諭すように言うと、唇をぎゅっと噛んでバーナビーが頷く。

「…あのな、確かに俺はもう結婚してる。娘もいる」
「…はい」
「だから正直、お前が告白してきた時は付き合うことに躊躇した」
「…はい」

虎徹の言葉を、バーナビーは情けなく眉を下げて俯き、叱られている子供のような風貌で聞いていた。
掴んでいた腕を離し、虎徹は今度は両手でバーナビーの手を包み込むように握った。

「どうしようか、すっげー迷った。で、迷った分だけ、付き合うことにしたその時の覚悟は半端じゃねぇんだよ」
「…はい」
「それに、友恵だって俺がずっと独りなのを望んでるわけねぇだろ」
「…」
「なぁ、バニー」
「…はい?」

「結婚しよう」

バーナビーが涙で滲んだ目を上げると、そこにはいつになく真剣な顔をした虎徹がいた。
夢だ、これは自分の願望が見せた夢なんじゃないか、とバーナビーは本気で考える。

「バニー、俺はお前と幸せになりてぇんだよ」
「……、…本当、ですか?」
「なんで嘘つくんだよここで」

苦笑して、虎徹はポケットからライトグリーンの指輪を取り出す。
包み込んでいたバーナビーの左手の小指に、虎徹はそれを嵌めた。
職場でたまたま貰って食べたお菓子についていた、所謂オマケの玩具だ。子供用らしいその指輪は、バーナビーには小指にしか入らなかった。

「ごめんな、今度ちゃんとしたの用意するから」
「…いりません。結婚指輪だけでいいです」

バーナビーがポロポロと涙を流しながら発したその言葉が、虎徹のプロポーズへの答えだった。





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