お待たせしました、という声と共に目の前に出された蕎麦は、見た目でわかるくらいに上等なものだった。

箸を持ち、麺をつゆに漬けて口に含み、虎徹はそれを啜る。真似するようにバーナビーは箸で麺を摘み、口に銜えた。
少したどたどしい箸遣いだったが、バーナビーは一応箸が使えた。

しかし、バーナビーは麺を銜える口をその状態のまま動かして、麺を噛み切ってしまっていた。
もしかして、と思い虎徹はバーナビーに聞いてみる。

「麺、啜れないの?」
「…すすれないんじゃなくて、やった事が無いだけです」

バーナビーは数本ずつ器用に麺を取り、少しずつ口に含んでいた。確かに麺を啜るなんて、やった事が無い人は出来ないだろう。

「こう、麺を銜えたら息を吸い込むの」
「…、……?」

バーナビーは麺を銜えたまま、解せぬというふうに顔を顰る。息を吸い込むことは出来ても、麺を啜る事に繋がらないらしい。

「可愛いから良いけどさ…」
「そんな事言われて喜ぶ男はいません」
「可愛いよ?」
「やめて下さい、…恋人でもないんですから」

盆に乗っている小皿のネギをそのまま咀嚼しながら、バーナビーは迷惑そうな顔で言った。
虎徹は気付いていた。なんともないように口にしたその言葉に、なんとも形容しがたい感情が含まれていたことに。





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