「おかえり、遅かったじゃん」
「すみません、話が少し弾んでしまって。ジュースありがとうございます」
正直、バニーちゃんと話が弾むなんて、とアントニオに妬いた。
ジュースを手渡すと、もう一度お礼を言われた。
こうなったら、思い切りバーナビーの気を引くしかない、と俺は燃えた。
もう、意地だった。
「…バニーちゃん、肩凝ってない?揉んでやるよ、俺意外と揉むのうめぇんだ」
「そうなんですか?お願いします」
素直に肩に触らせてくれるくらいにまで懐いてくれたのが嬉しい。
確かに硬く凝っている華奢な肩を、力を入れすぎないように気をつけながら揉んだ。
と、バーナビーが何やら雑誌のようなものを読んでいた。
「何それ?」
「これですか?中国語の雑誌で…僕が漢字を勉強してるって言ったら、ドラゴンキッドがくれたんです」
「ホァンがねぇ…。これ読んでろよ、これも漢字いっぱい載ってるから」
俺は、日本語で書かれた小説本をデスクから取ってバーナビーに渡した。
なんとなく自分の所有物を読んで欲しかったからだ。
「小説ですか?」
「ああ」
「お借りします」
着々と仲間内に馴染んでいく相棒の肩を揉む手に、少しだけ力を込める。
「つかなんで漢字なんか勉強してんだ?」
聞いてみると、目は本に向けたままバーナビーが口を開く。
「だって先輩、たまに日本語使うじゃないですか」
「…え、」
「それに、先輩の部屋にある本棚の中の本、ほとんど日本語ですし」
それで漢字を勉強しているのだろうか。
微笑ましさを通り越して愛おしい。凄く愛おしい。
「でもこれ、漢字じゃないのばっかりだ」
「平仮名、だな。平仮名は専門外か?」
「勉強中です」
開かれた本は、なかなか次のページへと進まない。まだまだ日本語読解は難しいらしい。
難しいのに、自分に近づくために頑張っているのだと思うだけで、先程までの嫉妬心が嘘のように晴れていく。
愛おしい相棒の肩を揉みながら、俺は幸せを噛み締めた。
「なんか俺、今すげー幸せだわ」
「僕もですよ」
「え?」
予想外の返事に、思わず声を上げてしまった。
「だってなんだか最近、他のヒーロー達が仲良くしてくれるんですよ」
またそれか、と俺は苦笑した。
その直後のバーナビーの言葉で、俺は彼を抱きしめる事になる。
「それで、仲良くしてると、先輩が何故か優しくしてくれるんです。凄く幸せですよ」