失敗と言えば途中吹き零れそうになったのを慌てて蓋を取ってしまった程度で、恐らくはちゃんと作れているはずだ。
まっさらな白い粥はちゃんと炊き上がった。

(…これで良いのだろうか)

しかし味見してみると、やはり健康な人間には味気無く、物足りなく感じる。
虎徹は元気になりかけているし、もしかしたら彼も味気なく感じるかもしれない。

バーナビーは手元にあった塩を振り、塩味を足してみる。
が、どうもパッとしない。
言ってしまえばこれは水気の多い白米だ。それに塩味を加えただけで先輩が喜んでくれるのか。

いつの間にか「なんでもいいから食べさせる」から「虎徹が喜ぶように」と目標が変わってしまったことに自分でも気が付かないまま、バーナビーは考える。

(…そうだ)

何か彩りに野菜を加えよう。
と、野菜籠に入っていた小松菜が目に飛び込んできた。

(こんな野菜、お粥に入ってなかったかな…)

バーナビーはその野菜を手にとってまじまじと観察する。
粥に入っていた、幼い自分が苦手としていた野菜の正体はこれだったろうか。

味や正規のレシピはどうであれ、これを使えば見た目も良くなるだろう。
バーナビーは少し小松菜を取り出した。

そして台所のごく取り出しやすい位置にある、分厚いまな板と、よく研いである包丁。
両方共扱うのは初めての部類に入るが、見慣れてはいるからどうということも無く使えるだろう。

小松菜を良く洗い、根元は捨てる。
流石に慣れていないので包丁の進みは遅く、切った小松菜の厚みもバラバラだが、煮てしまえばわからないだろう。

怖いという表現があっているのかはわからないが使い慣れていない刃物はとても危険な気がして、バーナビーは慎重に少しずつ包丁を動かした。

切っているうちに、自分がこんなに不器用だったのか、と悲しくなる。

(先輩はもっと早く切っているのに)

あの、先輩がリズミカルに包丁でまな板を叩く音を再現したい。
炒飯を作ってもらった時に聞いた、あのテンポで。

バーナビーは、切り途中の小松菜を再び持ち直す。
よし、と息を吸い込んで、トントンと勢いよく包丁を動かす。
と、指先にちりと痛みが走った。

指先を見ると、赤が滲んでいる。包丁で切ってしまったらしい。
痛くはあるが、幸い痛みにも血にも慣れている。この程度の傷は傷とも呼べない。

バーナビーはとりあえず舐めて放っておく事にした。




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