いつの間にか、バーナビーは虎徹の手を握ったままベッドに突っ伏して眠ってしまっていた。
はっとして時計を見ると、時刻は既に昼時だった。
アントニオが、部屋から去るときに机に置いて行った薬を飲ませなければならない。

バーナビーはその市販の風邪薬の説明を読む。やはり朝昼晩飲ませないといけないらしい。

(……食後に服用)

食後に飲めということは、何かを食べさせないと飲ませられないということか。
バーナビーが考察していると、虎徹が薄く目を開ける。
虎徹の小さく身じろぐ音ではっと目をやり、バーナビーは彼に声を掛ける。

「おはようございます、気分はどうです?」
「……ん…、大分良い…」
「そうですか」

とりあえず言葉が通じる程度には虎徹の風邪の症状が良いことを確認して、バーナビーはひとまず安心する。

「…あ」

そこでやっと、彼がろくに食事を摂っていなかった事に気付く。

「先輩、何か欲しいものとかありませんか」
「……水…が欲しい…です」

何故かつられて敬語で答えた虎徹にバーナビーは小さく笑う。
少し待ってて下さい、と言ってこの家のキッチンに向かったバーナビーは、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出した。

ガラスのコップと一緒にそのペットボトルを寝室に運ぶ。
ベッドサイドでとぽとぽとグラスに水を注ぐ音に、虎徹が閉じていた目を開けた。

「起きられます?」

彼の身体を支え、テーブルにあった水をグラスに注いで手渡す。
その手にも恐らくは力が入らないであろうから、手を添えたまま水が彼の口に吸い込まれていく様を見続けた。

「……ふー…」

虎徹は一息ついてから、バーナビーの方を見た。

「ありがとな、バニーちゃん…」
「バニーじゃなくてバーナビーです」
「はは…」

虎徹は力無く微笑み、グラスをバーナビーに渡すと、もう一度ベッドに身体を沈ませる。

「まさかバニーちゃんが来てくれるとは思ってなかったからさ…嬉しいよ」
「…無駄口たたいてないで寝て下さい」
「…ん…」

既に睡魔は彼の瞼を降ろそうとしている。
しばらく様子を見て彼の寝顔を確認してから、氷と水を貰おうと台所へと向かう。

台所に来てふと思い出す。虎徹が丸一日くらいほとんど何も食べていないということを。
そういえば、自分も食事がまだだったな、と思うと途端に腹が減るから不思議だ。

彼のお腹の中はほとんど空だろうから、何か消化に良いものを食べさせないと。困ったな。僕は先輩と違って料理らしい料理は全く出来ないからな…。

冷蔵庫を開けてみると、一般の家庭料理なら何でも作れそうなくらいの種類の食材が揃っていた。

肉や魚、卵や牛乳…等は消化に悪いから病人に食べさせる訳にもいかないだろうし…。

ぐるりと台所を見渡すと、朝に彼が炊飯予約しておいたらしい炊飯器が目に留まった。
炊飯器をぱかっと開けると、まだかたい米に水を張っている状態だった。

アレは炭水化物が殆どだから、煮詰めれば糊状になる。それなら消化に良い。消化に良いという事はエネルギーになりやすい、という事だ。

ふと考える。昔風邪を引いたときにはサマンサが作ってくれたもの。
粥。

病人に食べさせるものといえばそれだ。
アレなら僕にでも作れそうだな。

調理器具の並ぶ食器棚から、小ぶりの鍋を探すと、結構頻繁に使っているような痕跡のある小さめの鍋があった。土製のように見えるその小鍋は、これで粥を作って良いのか見当も付かないが、なんとなくこれなら美味しい粥が出来るだろうと思った。

炊飯器にある米は無視して、新しく米を用意する。
前に一度だけホァンも交えて夕飯を一緒に作ったときに、米は洗剤で洗うのは良くないと注意されたことを思い出しながら、何回かざざっと洗う。

だしとか味付けとかは、全くわからないまま鍋を火にかけた。
水に浸した方が良いのかとか、火はどんな加減が良いのかとかもさっぱり解らないので、柔らかくなるまで、ただひたすら煮る。

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