「?おお、そっか」

別に何を気にするでもなく、先輩は僕の頭を撫で続けてくれた。

「あなたといると、ホッとするんです」

表情が窺えないままの位置にいる先輩は、黙ったまま僕の話を聞いてくれた。

「あなたが近くにいるだけで、安心出来るんです」
「…嬉しい事言ってくれるじゃねぇか」

言い方から、先輩が笑っているのだろうことがわかる。
暖かい話し方だ。

いつまでも歩を進めない僕を不思議に思ったのか、先輩は少し腰をかがめて僕の顔を覗き込んできた。向こうからは僕の顔が見えているらしい。

今言うしか、無い気がする。

「先輩」
「ん?」


「好きです」


言った直後に訪れる羞恥心と、少しの後悔。その後に自分のものとは思えないくらいの心臓の音が耳に響いてきた。

あぁ、壊れたな、と思った。今まで蓄積してきた「相棒」という強くも脆い絆が。
いきなり同性の僕に告白なんてされて、誰が喜ぶだろう。

「あー」

間をおいて、居心地悪そうにやたらとあーだのうーだのと呻く先輩が、やっと言葉らしい言葉を発する。

「勘違いしてね?」
「?」
「いやー、あの、それは恋愛感情じゃなくてだな、ええと…父親に対する、っていうか…」
「勘違いなんてしてません!」

咄嗟に口をついて出た否定の言葉は、自分でも驚くくらいに強いものだった。
しかし、本当のことだ。正直なところハッキリとした区別はついていないが、今自分が先輩に対して抱いている感情の正体くらい、僕にだってわかる。

「でもよ、普通こんなオジサン相手にそういうのは…」

ずきりと、胸の奥が痛む。
"心"とは此処に存在したのだろうかと、ぼんやりと考える自分がいた。

「もう先輩結婚してますし、娘さんだっていらっしゃいます、それはわかってます。付き合って欲しいとか、そういうのじゃないんです」
「…、」
「…伝えたかったんです、忘れて下さいとも言えません」
「……」

自分でももう何を言っているのかわからなかった。
ただ、口を閉じたら泣いてしまうような気がして、ひたすら言葉を紡いでいた。

「好きなんです、どうしようもなく好きなんです、先輩」
「バニー…」
「ずっと側にいたいんです、一緒に、生きたいんです」
「バニー」

「好きです、虎徹さん」

これだけ言ったら何も言えなくなってしまい、口を閉じた僕の腕にぽつりと雫が落ちてきた。
視界が霞んでしまい、周りの状況はさらに窺えない。

そんな僕にも幻滅せずに、虎徹さんは変わらず優しく接してくれる。
離れるならせめて優しくしないでほしいのに。

「あー、バニー」
「…はい」
「勘違いじゃ、ないんだな?」
「…はい」

念を押すような問いかけに、今からでも勘違いでしたと言えば、今までと変わらない調子でコンビを続けられるだろうか、なんて一瞬考えた。
そんなことを考えてまで虎徹さんと一緒にいたいのか、と僕は自分を笑った。

「あのなバニーちゃん、よく聞いてくれるか?」
「…はい」

どんな拒絶が待っているのだろう。
同性だから無理?僕のことは息子程度にしか思ってない?
それとも、もともと僕なんて好きじゃない?

口を開く虎徹さんに、僕は無意識に身を構えた。

「俺、バニーちゃんのこと好きじゃなかった」
「……」
「気取ってばっかだし、付き合い悪いし、性格悪いし、良いところなんもねぇじゃんって、思ってた」

そんなにハッキリ言わなくても、とは思ったが、全部自分でもわかっていることばかりだった。

「でもさ、付き合ってるうちに色々見えてきてさ…、良いところあるじゃんとか、意外と可愛いとか、その、…過去とか」
「…」
「コイツにも色々あったんだって思った。そしたら今までの性格とか全部理解出来てさ、なんていうか放っておけないなって、思って」

僕は次々と紡がれる虎徹さんの言葉を、黙って聞いていた。
というか、声が出なかったのだ。

「そしたら、いつの間にかバニーちゃんを好きになってた。仲間としてじゃなくて、…そういう意味で」

心臓が飛び出るかと思った。
虎徹さんの声はいつに無く真剣で、それが相乗効果を生んで僕の心に入ってきた。

「俺こんなオジサンだから、バニーちゃんは絶対勘違いしてると思ったんだけど」
「勘違いじゃ、ないです」
「バニーちゃん愛してるよ」

そう言って僕の身体を暖かく包んできた虎徹さんの背に、僕も腕を回す。
心の、長い間ずっと穴の開いていた部分がどんどんと満たされていくような感覚に、僕は思いっきり身を委ねた。






最後のシーン書いてて熱中症起こしました

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