溜息が止まらない。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。

一日の仕事が終わり、バーナビーは虎徹の家に来ていた。


「おじさんのお陰で僕の評判は最悪です」
「んなこたねぇだろ、明るくなりましたねーって言われてたじゃんか」
「…それがイメージダウンなんですよ」

また無意識に溜息が出る。

期限治せよバニーちゃん、なんて甘ったるい調子で言うその声は、紛れも無くバーナビーの声だ。

自分の声で、自分の顔で、先輩が話している。
不思議を通り越して、変な気分だ。


何かと馬の合わない自分達を見兼ねた上司達が、"お互いの事を良く知るために"と、余計な世話を焼いて来たのだ。
要するに今バーナビーと虎徹は、身体と精神が入れ代わっていた。

虎徹がいつものように陽気でいるのは良いが、バーナビーとしてはそれを自分の姿でやられるのだから堪ったものではない。
いつもの砕けた態度も、口調も、自分の姿でやられる。とんだ迷惑だ。

「僕のフォローが無かったらもっとイメージダウンしてましたよ」
「あーもう、悪かった悪かった…拗ねんなよ俺の顔で…」

よしよし、と自分の身体に頭を撫でられ、バーナビーは苦笑する。
その虎徹の、頭を撫でてきた方の手では無い方に持っているワイングラスを見て、バーナビーは不満げに目を細める。

「飲み過ぎないで下さい。僕の身体はそれくらいが限界ですから」
「お前ホント酒弱いな…」
「普通です。先輩が異常なんですよ」

虎徹の手からまだ中身の入ったワイングラスを没収し、バーナビーはそれを口に含んだ。

「飲みかけだぞ?お前潔癖症じゃなかったっけ?」
「気になりません。あなた今僕の身体なんですから。自分の飲みかけみたいなものでしょう」

顔に似合って潔癖症なバーナビーは、普段人が口をつけたグラスには口を付けない。
いつもだったら、バニーちゃんがデレたーなんて言い出しそうなものだが、目の前でワインを飲んでいるのが自分の姿なため、虎徹はそれで一気に萎えた。

「これ、いつになったら元に戻るんでしょうかね」
「"お互いの事を良く知れたら"って言ってただろ?…どうすりゃ良いんだろうな」
「もう充分わかった気がするんですけど。先輩に対する皆さんの態度とか、先輩の仕事とか、仕事の溜まり具合とか…」

お互い、入れ代わって理解出来るような事は全て理解したような気がする。
相手の仕事は思ったよりも大変で、隣の芝生は青い、とは良く言ったものだと感心した。

「――あ」

唐突に虎徹が声を出す。
バーナビーがその声に驚き、片手に持っていたワイングラスを落としそうになった。

「な、なんです、いきなり」
「やってない事があった」

バーナビーの顔で無邪気に微笑みながら言う虎徹を、バーナビーは訝しげに見詰める。

「やってない事って、なんですか?」

すると、虎徹はいきなりバーナビーの身体をソファーに押し倒した。
視界が反転し、虎徹の背後には天井が見える。

「な…に、…するんですか!」
「まだやってない事って言ったらコレだろ?」

虎徹がバーナビーの首筋に何度も唇を落とす。
湿った音と共に、バーナビーの顔はどんどん赤くなっていった。


「…自分の顔であなたにキスされても、全然嬉しくありません」
「…、それ、普段は嬉しいってこと?」
「……!違っ…」

慌てて訂正しようと開いた口を、虎徹の唇で塞がれる。




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