聞いてはいけないものを聞いてしまった。
「…あ…っ、ん…ああっ」
応接室から聞こえてくるそれは、紛れもなく人の喘ぎ声だ。
何をしているのか、嫌でもわかる。
(……こんな所で何してやがる)
ここは、学校の職員室のすぐ側にある応接室の前。
いつも放課後のこの時間、非常勤の俺は生徒たちの補習をしているのでここには来ないのだが、今日は補習が無かったので職員室に戻る拍子にたまたま通り掛かった。
とりあえず、スルーだ。
気付いたからと言って、何が出来るわけでも無いのだ。
俺はそう自分に言い聞かせて、職員室に戻った。しかし。
(……微妙に、聞こえてる…)
職員室にもあの嬌声、それから下卑た笑い声が聞こえていた。
「…あのー」
「はい?」
自分のデスク横にいた教師に声を掛けてみる。
「…聞こえて、ます?」
「え?…ああ!もしかして初めて聞きました?先生は非常勤の方ですから」
「初めてって…まさかコレ、過去に何回も?」
こんな話題なのに、なんでもない世間話をするように話すその教師は、どこか楽しそうだった。
「週に2、3回はヤってますよ!」
「そんなに!?」
「先生もどうです?」
その教師は、俺の腕を掴み立ち上がった。
「え、どうですって…どういう…」
「アレ、誰でも自由にやって良いんですよー。私も溜まってたんですよ、ねっ、一緒に」
有無を言わせないその教師の様子に、俺は腕を掴む手を振りほどけないまま引っ張られてしまった。
「失礼しまーす」
その教師が間延びした口調で扉を開ける。
と、そこには複数の中年の男と、彼らに囲まれた中央の背の低いテーブルの上にある色白の肌が見えた。
「…やっ、…ああ…っ」
「おら、もっと脚開けよ!」
肌を打つ音が聞こえた。これは、合意的な行為なのだろうか?
男達の性欲処理をしている、テーブルの上に横になっている人物を何気なく見る。
そこにいたのは、なんと女ではなく男だった。
それだけではない。
「バーナビー!」
「…っ、鏑木、先生…?」
男達に囲まれていたのは、学年一の優等生である教え子だった。
「お前、何やってんだよ!?」
「……っあ、見て、わかりま、せん……?」
「見て…って…、…ちょっと待てよとりあえず!」
声を張り上げてこの状況を制止する。
バーナビーを犯していた教員達もその声に動きをとめる。挿れていた人もそれを引き抜き、身だしなみを軽く整えた。
「何やってんだよ!教員がこんなことしてていいのかよ!」
「…合意の上です。そうでしょうバーナビー君」
「はい」
教員達がバーナビーに同意を求めると、彼は間髪も入れずに肯定する。
おかしい。これは、狂ってる。
「…本当か、バーナビー」
「本当です」
無意識に、心の底から溜息をついた。
まさか学年一の優等生に限ってこんなことをしていたとは。
「…ちょっと話がある。お前だけ来い」