「先輩、これはなんですか?」
「これは星ってやつだな」
天の川を仕事用のデスクトップの背景に設定していたら、俺のパソコンが視界に入ったらしいバーナビーに問われた。
スクリーンを指差し、これは何か、と。
「…知ってますよそれくらい。僕は真面目に聞いてるんです」
「え?」
真面目に、という言葉が心の引っかかる。真面目に、これは何かと聞いてきたのだという。
まさかとは思うが、星を知っていて「これは何か」と聞いてくるなら、理由はこれしか無いだろう。
俺は持っていたコーヒーカップを机に置いて、くるりと回転椅子をバーナビーの方に向けた。
「…バニーちゃん、天の川知らないの?」
「……、…あまのがわ」
小さくつぶやくように単語を反芻したバーナビーが、気まずそうに目をこちらに向ける。
「…知りません」
「えー…、えーマジか…」
自分達以外誰もいないオフィスで、真昼間からこんな星の話などそるとは思わなかった。
「今日、七夕っていう節句なんだけど、この日の夜だけ空がこんな風になるんだよ」
「…去年までもそうでした?」
「あー…いや…田舎の方の、空気が綺麗なトコ限定だな…」
じゃあシュテルンビルトでは見れないんですか、とバーナビーは少し残念そうな顔をした。
それが可愛くて、俺は彼を抱きしめたい衝動に駆られる。
「まぁ、ここじゃ無理だろうな…」
「…そうですか」
「あ」
ふと、思い出す。
この時期によく店頭で見かける、甘味。
「手出してー」
「?」
そう言うと、両手を差し出してきたバーナビーのそれを、御椀形に曲げさせる。
そしてその上に、ざらっと大量の金平糖を乗せた。
「えっ」
「金平糖。星の形してるから…天の川の気分だけでもさ」
迷惑そうな顔で、なんでこんな大量に…と文句を言いながらも、バーナビーの顔は綻んでいた。
多分、彼は家族と過ごしたあまりにも短い時間の中で、七夕というものを記憶の中に刻めなかったのだろう。
一人でいる間にこの節句を味わうのは、難しい。
金平糖によって塞がれているせいで不自由なバーナビーの両手から金平糖を一つ摘み、彼の口元へ持っていく。
開かれた口の舌先にそれを乗せると、バーナビーははにかんだように笑った。
――バニーちゃんが幸せになれますよーに。