カサカサ、と背後で音がした。

「……?この部屋どこか窓でも開いてます?」
「開いてねぇよ?」
「?」

疑問符だらけの会話に、机でデスクワークをしていた虎徹がソファーから立ち上がる。
机に置いてあったエアコンのリモコンをバーナビーに手渡し、虎徹は尋ねた。

「寒い?」
「いえ、そういう訳じゃなくて、その辺でなんか音がしたので」
「音?」

バーナビーが「その辺」と指を指した先には、山積みになった挙げ句に雪崩を起こしていた莫大な量の書類があった。

たまに山が崩れて音はするが、バーナビーがわざわざ言うのだから不自然な音がしたのだろう。

虎徹はその書類地獄に踏み込み、音の正体を探そうとした。
その時。

「!!!」
「………ッ!」

カサカサ、と音を立てて、黒茶の昆虫が姿を現した。
それに驚き後退りした虎徹の背後で、バーナビーも息を呑む。

「……バニーちゃん」
「…、なんです?」
「それ」

それ、と指で示された先の壁には、金属製のちりとりがあった。
これで叩くのだろう、とバーナビーは素早くそれを手に取り、虎徹に渡す。

「……叩け」
「…は、え?先輩が叩くんですよね?」
「…なんだバニーちゃんはゴキブリが怖いのか?」
「…怖くなんかありませんよ。ただここは先輩がやるべきでしょう、先輩の家なんですから」

お互い引き攣った声で、触覚しか動いていないその忌ま忌ましい昆虫を見詰めながら会話した。

「…正直に言おう。俺はゴキブリが怖い。だから叩いてくれ」
「な、なんでですか、苦手を克服するチャンスですよ先輩」
「…お前怖くねぇんだろ?じゃあ叩けよ」
「嫌ですよ僕だって怖いですよ!!」

本格的にちりとりの押し付けあいを始めた2人の横で、ゴキブリが動き出した。

「…!、動きましたよ!」
「うわあああどこ行った!?」

ゴキブリを目の前にするのは怖いが、目の前からいなくなること程怖いものは無いだろう。

怯えながらもキョロキョロと辺りを探す2人の視線の先に、奴が姿を見せた。

「そこか…」
「見付けたところでどうするんです?サマンサ呼びます?」
「誰だよサマンサって」

完全に怯えきっているバーナビーの手からちりとりを奪い、虎徹はゴキブリにジリジリと近寄る。

「、行くんですか?」
「……投げる」
「…そうするしか無いですよね」

精神的余裕の無い虎徹が考えたあまりにも無謀な作戦に、精神的余裕の無いバーナビーは納得する。

「…行くぞ、……ていっ」

自然に口から出た掛け声と共に投げたちりとりは、ゴキブリのすぐ近くの壁に当たって乾いた音を響かせた。

しかし、被害は大きかった。

「……っあああ!」
「うわああああああ!!」

それに反応したゴキブリが、2人に向かって飛んで来たのだ。

そして、無意識のうちに、どちらからとも無く青白い光が発生した。












「は?能力使えないってどういうこと?」
「少なくともあと40分は使えねぇな…」
「2人とも?」
「…ええ」

あの後事件だと呼び出された先で、さっき使ったから能力が使えないんだと言う事を話すと、ブルーローズに溜め息を吐かれた。

「なんつーか…個人的な事件解決のために使った…みたいな…」
「一体何したのよ?」
「「…ちょっと…野暮用で…」」







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