差出人:バニーちゃん
件名:
本文:休みます
朝、出社する準備をしていると、一体何があったのかが全くわからないメールが来た。
休みます、と言うのは恐らく会社の事だろう。それくらいはわかる。
今までに仕事を休んだ事はあったが、"気が乗らなかった"とか突発的なものだったから、今回のように事前に連絡が来るような事態は想定していなかった。
一体、何があったのだろう。
怪我でもしたのだろうか。
アドレス帳から"バニーちゃん"の字を探し、通話ボタンを押した。
しかし、受話器の奥で呼びだし音が何度鳴っても、一向に出て来ない。
――何かあったのかも知れない。
変な胸騒ぎがして、俺は会社に行くのも忘れてバーナビーの家に向かった。
全力疾走してバーナビーの家に辿り着き、あらかじめ渡されてあった合い鍵を使い中に入る。
「バニー、いるか!?」
声を張り上げても、返事は無い。
本格的に、何かあったのかも知れない。と、焦りと恐怖に似た感情が体内に走った。
しかしバーナビーは、家中を探し回り最後に入った寝室にいた。
「―……バニー!?」
バーナビーはベッドの上では無く、それの横にぺたりと座っていた。
頭はベッドの上で俯せになっていて表情は見えない。
右手はベッドの上にあり、携帯電話を握り締めている。左手は力無く床に投げ出されていた。
不謹慎だが、例えるならリストカットをした後のような体勢だった。
「バニー、おいバニーどうした!?」
背後から両肩を掴み、強く揺さぶった。力加減など気にする余裕は無かった。
バニー、と何度も何度も呼ぶうちに、か細い声が彼の口から漏れた。
「……せん、ぱい…?」
薄く開いた目は薄く涙を浮かべており、焦点が合っていない。
はぁ、はぁ、と荒い息をするその顔は、赤く染まっている。
「お前、もしかして」
涙目と頬の上気から、予測を立てる。熱が出ているのでは無いかと。
前髪をかき上げて額に片手で触れると、暖かい自分の手でもわかる程に熱かった。
「……あっつ」
「…、先輩、仕事…は…?」
「あー」
すっかり忘れていた。
こんな状態のバーナビーを残して出社なんて出来るわけないからどうせ欠勤だろうが、連絡くらいはしないとだろう。
「ベッドの上、横になれるか?」
「……」
いつまでも床の上でベッドに縋るような体勢でいるバーナビーにそう聞いてみるが、返事は無い。
意識が朦朧としているのだろう。
「横にするぞ」
右手から"送信完了"という表示が出たままの携帯電話を取ってサイドテーブルに置き、俺はバーナビーの脇に手を入れて持ち上げるようにしてベッドの上に横たわらせた。
「ちょっと待ってろ、20分くらいしたら戻って来るから」
返事は無く、荒い息が返ってくる。
辛そうな表情を浮かべたままのバーナビーを置いて、俺は会社に連絡をしながら、色々と無さそうなこの家で看病するために物資を買いに街へ出た。