「あいつらは寝たのか?」
余り音も立てず、静かに部屋に入って来たバーナビーに問い掛けると、短く肯定の返事が返って来た。
「何勝手に人の椅子を占領してるんです?」
「悪い悪い」
勝手に彼の椅子を使っていた俺に、バーナビーは呆れたような声でそれを指摘した。
軽く謝ると、バーナビーも酒に手を出してくる。
無言で酌み交わして自分の杯に口を付けると、バーナビーが遠慮がちに声を掛けてくる。
「怪我は大丈夫ですか?」
口にこそ出さないが、心配そうな顔をしたバーナビーに大丈夫だ、と短く答えると、彼はそっぽを向いてしまった。
少しだけ安堵した顔に、俺も安心する。
実際、服が擦れると痛むだけで、服を脱いでいる今は本当に痛みは感じない。
暫く世間話をしたり、バーナビーが長い間集めてきた資料などを見たり、談笑したりと穏やかな時間を過ごした。
最近、彼の表情がちゃんと変わるようになって来た。その程度には、信頼してくれているのかもしれない。
なんて事を考えて、ふと自分の空腹に気が付いた。
そういえば、夕飯の時は赤ん坊に邪魔されて碌に食べられなかったのだ。
「なぁ、バニーちゃん」
「なんです?」
「腹減ってねぇ?」
自分がちゃんと食べられていないのだから、バーナビーだって食べていないはずだ。
「…あ、そう言われると」
はたと動きを止め、少し考えるように腹部に手を当てたその何気ない仕草が可愛いと思った。
自分と彼の食欲を満たそう。
24時間営業の店が近くにあると、こういう時に実に便利だ。
「なんか買って来るわ。何が良い?」
簡単な店屋物を買うにも、彼の趣味がわからなかったから一応聞いてみる。
すると、バーナビーはなんだか困ったような拗ねたような、とにかく何かに落ち込んでいるような顔をした。
もしかして。
「あ、店屋物嫌い?」
閃いたままに聞いてみると、バーナビーはふるふると首を振った。
じゃあ一体どうしたんだろう。
解せぬまま頭を掻くと、バーナビーが遠慮がちに口を開いた。
「…作っては、くれませんか?」
一瞬、耳を疑った。
バーナビーがそんなことを言うなんて想像していなかったし、言われても未だに信じられない。
「……あ、あの、迷惑ですよね」
「…いや珍しいなと思ってさ。何食べたい?」
ばつが悪そうなバーナビーは、俺がそう言うとぱっと明るい顔になった。
表情は変わらないが、なんとなくわかる。
「ピラフが良いです」
「…っ」
ピラフ。
それは、さっき皆に作ってやったのだが赤ん坊に邪魔され食べられなかったものだ。
もしかして、バーナビーはあのピラフが食べられなかったことに落ち込んでくれていたのだろうか。
「…ピラフな、すぐ作るからちょっと待ってろよ!」
「はいっ」
少し口角の上がったバーナビーは、珍しく威勢の良い返事をした。
彼に背を向けて、キッチンへと歩き出した途端、俺の口元は緩みきってしまった。