「この部屋にはクーラーは無いんですか」

文章は疑問形なのに全く語尾の上がらない口調に、バーナビーの諦めに似た感情が表れていた。

「あるけどよ、まだ入れられないんだと」
「なんでですか…」

語尾の下がりきったバーナビーは、いつも2人でデスクワークをする部屋の隅にあるソファーに横たわっていた。
いつもの上着は脱ぎ捨ててあり、黒いシャツ姿で寝ている。
額には、冷たい水で冷やした俺のタオルが乗っている。

節電だってよ、と言いながら俺は、先程可哀相なほどぐったりとした彼の為に買ってきた冷たいジュースを手渡す。

「ありがとう、ございます」

突然与えられた冷たい救世主に、素直に御礼が言える程には弱りきっているようだ。
バーナビーはジュースを飲むことなく、それで腕を冷やしたり頭に乗せたりしている。

「先輩は、大丈夫なんですか?」
「俺?」

暑くない、と言ったら嘘になる。
でも、こんなになる程辛い気温では無かった。暑いは暑いが、夏はもともと暑いものだから、と諦められる程度だ。

「俺は、バニーちゃんより暑さに強いから」
「そうですか…」

一定の体勢でいるのが辛いのか、何度か寝返りを打つように体勢を変える相棒の額には、幾筋もの汗が伝っていた。
色っぽい、なんて思ってしまった俺も、結構暑さにまいっているのだろうか。

彼が寝ているソファーの脇にしゃがみ込み、整理の出来ない机から団扇を取り出して扇いでやると、バーナビーはとろんとした眼差しでこちらを見てきた。

「…それ、先輩が暑くなりますよ」
「んー?気にすんなよ」

パタパタと扇いでいると、バーナビーの忠告通り、やはり少し暑くなった。
そろそろシャツも薄いのにしないとな、なんて思っていると。
突然、左頬が冷やされた。

「汗、掻いてますよ」
バーナビーが、右手に持ったジュースを俺の左頬に当てていた。

「可愛いことしてくれんなー」
「嬉しく、ないですよ」


赤くなっている頬は、暑さのせいなのかどうなのか。
俺は、ひたすらバーナビーの身体を少しでも冷やすべく団扇を動かすことに没頭した。


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