ちゅ、と軽い音をたてて、唇が頬から離れていく。
バーナビーからキスを受けたイワンは、顔を赤らめてはにかんだ。
「あらぁ、ハンサムは酔うとキス魔になるのね〜」
「酔ってませんよ」
「酔ってるぞ、そして酔ってるぞ!」
ハッキリ言おう。
ここにいる、ほぼ全ての人間が酔っていた。
いつもだってヒーロー達で集まって酒を飲み交わしているのだが、今回はいつもと違った。
もう既に何件か梯子しているところなのだ。
全員が常に無い飲みっぷりで、未成年組も完全に雰囲気に酔ってしまっている。
そして、笑い上戸、泣き上戸、ハグ魔、説教魔、鬼絡み、みんなして色々な酔い癖が現れ始めているのだ。
そんな中で、普段は冷徹なバーナビーも、ばっちりキス魔になっていた。
普段だったら皆だって引くだろうが、全員酔っている。
手を叩いてキスコールもしてしまうくらいの勢いだ。
面白くない。
そう思っているのは、他の誰でも無く、虎徹だ。
普段一緒にいるのに、バーナビーが自分からキスしてくれたことなんてあっただろうか。いや、無い。
少し腹が立って、酒を喉に流し込む。
グラスを机に置いたところで目に入って来たのは、今度はアントニオにキスするバーナビーだった。
バーナビーはいつもの澄まし顔だし、アントニオは満更でも無さそうな顔で。
俺は、酔った勢いと腹が立った勢いで、目の前に座るバーナビーに言った。
「バニーちゃん、俺にもキスしてよ」
ヒューヒュー、と周りから口笛が上がる。人を茶化しているその姿から、ヒーローとしての威厳は全く感じられなかった。
「―………」
突然の俺のその言葉に目をまるくしたバーナビーは、視線を左右させた。
他の奴らにはなんの抵抗も無くしていた癖に、と思ったが、その考えはすぐに掻き消された。
真っ赤だった。
バーナビーの顔が。
「…えーと、バニーちゃん?」
「あっ…、え…と…」
歯切れの悪い調子で言葉を紡ぐバーナビーは、可哀相なくらい顔を赤らめていた。
それを見た瞬間、身体が勝手に動いた。
バーナビーの席にまわって、その火照った身体を抱きしめる俺を、周りの奴らがまた茶化したのは言うまでも無い。