「あなたと一緒にいると碌な事がありません!!」
「なんだよ俺のせいかよ?」
「少なくとも外出しようと言い出したのはあなたじゃないですか…」
はぁ、と大袈裟に溜息をついた相棒を、虎徹は横目でちらりと見る。
寒いのだろうか、肩が少し震えているのが見えた。
「天気予報は見たんだけどな…」
「まぁ、完全にの予測出来るものではありませんからね」
ざああと勢いの弱まる事無く振り続ける雨に、今度は2人して溜息をついた。
自分達は今一体何をしているのだろう、と。
最近続いていたデスクワークに、目も肩も腰もやられ、肉体疲労を実感出来るまでになってしまったそのタイミングで、虎徹は気分転換に外出することにしたのだ。
見るからに疲れていたバーナビーも連れ出したは良いが、天気予報を裏切り空は雨を降らせ始めたのだ。
自然公園の、屋根のあるところに急いで非難した。
少しのベンチと机がある、小さな休憩場のような場所だ。
雨脚が弱まるまで、と思っていたのだが災難とは続くもので、弱まるばかりかどんどん強くなっていった。
オフィスのある建物に帰るタイミングを逃し、今ではもうバケツを引っ繰り返したような豪雨だった。
何もすることが無いとは言え、何もしないのも沈黙が辛い。
バーナビーも寒そうだったから、虎徹はどうにか相手の気を紛らわせてあげようとした。
「しりとりでもしてよーぜ、"り"からな」
「またそういうオジサン臭い発想を…"林檎"」
「"豪雨"」
「"鬱"」
「"辛い"」
ネガティブな循環に、どちらからともなく再び沈黙してしまった。
虎徹はポケットから飴をいくつか取り出すと、バーナビーの視界にその手を捻じ込んだ。
「食う?」
「…ありがとうございます」
無機質な返事に、虎徹はになっこりと微笑んだ。
「どれがいい?」
「…イチゴ」
「ん」
虎徹は余った飴の中からメロン味のものを選んで、口に入れた。
バーナビーが口に含んだ飴の質量で頬がわずかに膨らんでいるのが可愛らしい。
そんな可愛らしい風貌のまま、バーナビーは遠くの空を見つめながら呟いた。
「…ああ、帰りたい…」
「帰るか」
「は?」
「え?」
「え?」
「いやだから、もう帰ろうぜ」
見渡すと視界いっぱいの水。雨。
全く雨脚の弱まらない雨の中、虎徹は帰るぞ、と立ち上がった。
「え、この中を歩くんですか?」
「走るぞ」
「えええ…」
あからさまに嫌そうな顔をしながら、バーナビーも立ち上がる。
「走れ!」
虎徹はバーナビーの腕をつかんで、勢い良く走り出した。
なんだか豪雨の中を走っている自分達がおかしくて、笑えてくる。
腹の底から湧き出てくる笑いをそのままに、虎徹は走っていた。
そんな相棒に釣られて、バーナビーも声を上げて笑い出した。
ずっと久しく忘れていたその感覚に、身を委ねて。