その場にいた全員が命令に従って、ヒーロースーツに着替えた後言われた場所に集まった。

現場に到着するなり目に飛び込んで来るのは、凄まじい勢いで燃え盛る炎。
火事と言うよりも大火災と言った方がしっくり来るような惨状だ。

「アニエス!鎮火すればいいのか?」
『それは消防隊に任せて。貴方達は人命救助を優先させなさい』
「人命救助?」
『まだ中にこの家の主人がいるはずだから!』

指令を纏めるとこうだ。
火災が発生したのは資産家の家。他の人達は既に保護されたが、家の主人がまだ中に取り残されている。という所だ。

状況説明が終わり次第、ヒーロー達は建物の中に入って行った。
虎徹は、隣にいるバーナビーに声を掛ける。

「よし、バーナビー行くぞ」
「…はい」

燃え盛る炎の中に入って行く。視界の悪い中で必死に人の影を探しながら、虎徹は思った。

――この光景を、バーナビーに見せたくない。

何故だかはわからないが、バーナビーに炎を見せたくないと思った。
炎の中に人がいる光景なら尚更。
本人はなんとも思っていなさそうだし、何より炎が嫌いだなんて聞いていないのだが。

目の前で自分達の邪魔をする瓦礫を持ち上げようとすると、バーナビーに制止された。

「なんだよ?」
「そういうのは僕がやりますから」
「は?」

重い瓦礫をゆっくり持ち上げ、バーナビーは蹴ってそれを壊した。

「身体に、くるでしょう?」
「ああ?お前俺の事年寄り扱いしてんのか」

さぁ、とバーナビーに軽くあしらわれ、虎徹は唇を尖らせる。
しかしここで言い合っても仕方ないので、2人は黙って走り続けた。

すると。
「あっ、2人とも!」

先方でブルーローズに呼ばれた。

「あ?どうした」
「そこに居たのよ、でも本棚の下敷きになってて」

ブルーローズに連れ込まれた部屋に入ると、そこにはドラゴンキッドもいた。
そこは他のところと比べればまだ炎はまわっていなかったが、主人と思われるその人は本棚の下敷きになっていた。
これでは炎も関係なく、危ない。

豪家とだけあって、図書館にありそうな程、壁一面埋め尽くせるくらい重く大きな本棚は、確かに女性二人ではびくともしないだろう。

「よし、バーナビーも能力使ってそっち持て!本棚立てるから、そしたらお前らはこいつを外に運べ!」
「わかった!」

2人の威勢の良い返事に、虎徹は本棚を持ち上げに掛かった。
もちろん、この巨大なもの素で持ち上げるのは不可能だ。でも、能力を使えばなんとかなるだろう。

能力を使い本棚を担いだ虎徹の目の端で、青白い光が発生した。
バーナビーもハンドレッドパワーを使ったのだろう。

「肩は、大丈夫ですか、先輩」

息切れ切れにそう訊ねてきたバーナビーに、虎徹は苦笑する。
「だから、年寄り扱いすんなって…」
「…そうじゃ、なくて…」

そう呟いたバーナビーに、どういう意味だと問いただす前に、本棚が少し浮いた。
その隙に男の身体を引きずり出した女性陣が、そのまま2人がかりでそれを担ぎ上げる。

「じゃ、運んでくね!」
「おう」

氷で消火しながら部屋から消えていく2人の背を見送り、虎徹はバーナビーに短く指図する。
「本棚置け」
「はい」

虎徹は、ぱっと手を離して本棚を元の位置に戻したバーナビーに、問うた。
「さっきの、そうじゃなくて…って何だ?」
「あ、いえ…忘れて下さい」
「なんだよ、気になるじゃんかー」

忘れて下さい、ともう一度呟き、部屋から脱出しようとした相棒の。
頭上に、瓦礫が降りかかってきた。

「…!バーナビー!」
「え…っ」

どん、と鈍い音と共に、バーナビーの背を思いっきり押した虎徹は降りかかってきた瓦礫の下敷きになった。

目の前で倒れる、大切な人。
バーナビーは一瞬我を忘れて、あの日の惨状と今の光景を重ねた。

「…ってて…」
「…先輩!」
「おー、大丈夫だったか?」

能力を発動していたお陰もあり、虎徹は自力で瓦礫の中から這い上がるとコキコキと肩を鳴らした。

「人の心配してる場合ですか!」
「俺?俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないですよ!!」

突然、泣き出しそうな顔で声を荒げた相棒に、虎徹は目を見開く。
いきなりの事態に動揺しきった虎徹は、わなわなと肩を振るわせたバーナビーに胸倉を掴まれた。

「また、僕なんか庇って…、やっともうすぐ思い出してくれそうなのに…!」
「…え?」
「これで、もしまた記憶喪失したら、どうするんですか!!」


歯車が、やっと噛み合ったような心地がした。





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