「先輩、肩に石詰めてません?」

不意に肩に触ってきたバーナビーに、そんな事を言われた。
言外に"肩が凝っている"と指摘されたのだろうと理解した虎徹は、自分の右手を左肩に置いて首を回す。
ポキポキ、と小気味良い音が響いた。

「あぁ―…言われてみれば首痛ぇな」
「でしょうね」

自宅のソファーを陣取ってデスクワークをしている虎徹の背後に立って、バーナビーは指3本くらいで虎徹の肩を少し押した。

なにも日曜日の今日、自宅にまで仕事を持ち帰らないでも、とバーナビーは指摘したのだが、虎徹は暫くサボってたからなぁと笑うだけだった。

そんな訳で、仕事をする虎徹の横でバーナビーは暇を持て余していたのだ。
普段だったら絶対に有り得ないポジションに、虎徹は薄く笑っていた。

バーナビーは、それまで突くだけの動きだった手を別の動きに変え、ぎゅっぎゅっと本格的に肩の肉を解し始めた。

「何?揉んでくれんの?」
「年配の方を労るのは当然の事です」
「年配ってなんだよ先輩だろ!」

首を後ろに回して指摘すると、両手で頭をくいっと回され、正面に向けさせられた。

暫くお互い黙ったままデスクワークとマッサージを続けていた。この沈黙が心地好い。まるで老夫婦みたいな感覚だったが、それを言ったらこの歳若い後輩は気を悪くするだろう。

「大分、良くなりましたよ」
「おお」

言われて虎徹が肩を回すと、本当に軽くなっていた。凝っていた時は気にならなかったが、確かに酷い状態だったらしい。

「ありがとな」
「いえ、…お茶煎れて来ますね」

キッチンお借りします、とリビングに付いているキッチンに向かうバーナビーの背に、虎徹はトーンの落ちた声を掛けた。

「…なぁ…」
「はい?」

くるりと身体を半回転させ、バーナビーは虎徹の方に顔を向けた。
虎徹は、目を合わせないままに言葉を続ける。

「俺、なんかしたか?」
「…はい?」
「…だってさっきからおかしいだろ?いつもだったら肩とか絶対、触りたくないーとか言いそうじゃん!」
「……」
「お茶だって普段は絶対煎れねぇし…」

自分は何か気を障ったことをしたか、と虎徹に問われ、バーナビーはあからさまに不機嫌そうな顔をした。

「帰ります」
「…は?え?」

真っ直ぐに玄関の方に向かっていくバーナビーを慌てて追い掛け、腕を捕らえた。

「やっぱり怒ってんじゃねぇか」
「今怒り始めたんですよ!」

普段の、いや普段以上の迫力で睨みつけられ、虎徹はたじろいだ。

「なんでだよ、じゃあなんで今日はあんなに機嫌良かったんだ?」
「……」

はぁ、と溜息を付いて、まだ解放されない腕をそのままにバーナビーは口を開いた。

「…特に意味はありません。たまには良いかなと思って、やってみただけですから」

だから気にしないで下さい、とバーナビーは続けた。
どうも腑に落ちなかったが、虎徹は腑に落ちないままに納得することにした。

「そっか、まぁ…ありがとな」
「いえ、こちらこそ」
「?」
「じゃあ今度こそお茶煎れて来ますね」
「おー」

そのあとは、お互い平和に一日を過ごした。
一日中、バーナビーのサービス精神は持続したままで、何となく落ち着かなかったが。









翌日、たまたまトレーニングルームで一緒になったカリーナに、なんとなく何の気も無しにそのことを話した。

「…は?それいつのこと?」
「え、いやだから昨日だって」
「信じらんない!アンタ昨日が父の日だって忘れてたワケ!?」

――父の日。

その言葉を聞いた瞬間、虎徹はバーナビーの元へ駆け出していた。




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