自分にはヒーロー向きの能力が無い。

イワンは、休憩室で本日何度目になるかもわからない溜息をついた。

それは自分でも痛感していたし、先の件でだって一人では何も出来なかった。出来てもそれは多少の時間稼ぎだけだったし、あの時にもし虎徹とバーナビーがいなかったら、自分も友も殺されていただろう。

「…はぁ」

いつか役に立つ日が来るだろう、と慰められ励まされなんとかヒーローを続けてきたが、流石に自信も無くなってしまう。

「…がんばろ」

もっと頑張れば、能力もコピー出来るようになるかもしれない。
立ち上がり、ふと自分を励ましてくれた虎徹の顔を思い浮かべる。

――擬態。

自分の身体は一瞬にして他人の身体へと擬態する。これが自分の能力だ。役に立たない、地味な能力。
他人の身体でネガティブになるのはどうかとも思うが、誰も見てないし良いか、と虎徹の身体で溜息をつく。

そろそろトレーニングに戻ろう、という時だった。

「あ、オジサンこんな所にいたんです?」

虎徹の相方である、バーナビーがこちらに歩いてきた。

「えっ、あ、」
「探しましたよ。またサボってたんですか?」
「あ、いやあの」

すぐに擬態を解くべきだったのだろうが、そこまで頭が回らなかった。
虎徹の身体のままで必死に弁解しようとするイワンをよそに、バーナビーは会話を続ける。

「サボってたんでしょう?誤魔化しても無駄ですよ…、…あとこれどうぞ」

す、と目の前に缶コーヒーが差し出された。

「あ、ありがと…」
「いえ、あの、…その、」

虎徹になりきろうとして少し素が出てしまったが、それには気が付かなかったバーナビーが、俯きがちに声を出し絞る。
言いにくい事なのだろうか、果たしてこれは自分が聞いてもいいことなのか。そんな事を考えているうちに、時間切れになった。

「……、…オジサン、その…この間は、ありがとうございました…」
「…えっと」
「…あの…庇ってくれて…。怪我はもう大丈夫ですか?」
「…だ、大丈夫だよ、大した事ねぇよ」
「無事で、良かったです」

ふわ、と柔らかい感覚に包まれ、その後一拍子遅れてバーナビーに抱きしめられたことを理解する。
すぐ離れていったその身体が、目で見るよりも華奢だったことが印象付いた。


"…あの…庇ってくれて…。怪我はもう大丈夫ですか?"
怪我。
声を反芻して、そうだ、虎徹さんは自分の知らないところで怪我をしたんだ、と思い出すと同時に、バーナビーを庇って怪我をしたんだという事実も知った。

「…あの、勝手なことしてすいませんでした」

ぺこ、と頭を下げるバーナビーのこんな弱気な顔を自分は見たことが無い。

「い、いや」
「…それじゃあ僕は戻ります、オジサンも無理しないで下さいね」

くるりと自分に背を向け去って行くバーナビーを目で追い、さてこれからどうしようかと思案する。

――虎徹さんだ。虎徹さんを探そう。

トレーニングルームには絶対いないし、だとするとシャワールームかロッカールームだ。
イワンは擬態も解かないまま、走り出した。


バーナビーの擬態をしたイワンが虎徹に抱きつくまで、あと数分。







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