「先輩、僕のことわかりますか?」
「…初めて会うんじゃ、ないのか」

神妙な面持ちで返事をしてくる先輩を、直視出来ない。
何か言ったら、泣き出しそうな気がした。

「虎徹、こいつはお前の恋人だぞ。覚えてねぇのか?」
「……」

申し訳なさそうな先輩の表情が、その質問の肯定を意味した。

「…ごめん、私、出るね」

タオルで目元を押さえながら、ブルーローズは病室から出て行った。
本人の前で泣かないあたり、彼女は強い。

ロックバイソンがベッドサイドの椅子から立ち上がる。

「じゃあ俺も一旦戻る。また後でな」

気を利かせてくれたのかどうなのか、ロックバイソンも部屋から出て行った。
彼の座っていた椅子に座って、先輩の腕を見詰めた。
顔はやっぱり直視出来なかった。

何を話したら良いのかわからず視線をうろうろさせていると、先輩が声をかけてくれる。

「なぁ、お前、本当に俺の恋人なの?」
「……はい」
「俺、なんとなくだけど女性と結婚してたような気がするんだ…」

僕の事は綺麗に忘れている先輩は、奥さんの事は少し覚えているらしい。
それで良かった。僕の好きな先輩は、奥さんの事を世界で一番愛していた。

「してましたよ。昔亡くなってしまいましたが」
「…そうなんだ」

後で混乱させるのも良くないので、僕は事実を出来るだけ淡々と伝えた。
その場凌ぎの言葉を選べばきっと後で後悔するから。

「俺とお前との関係は?」
「…相棒です。仕事の」
「仕事って何やってるの?」

ヒーローしか無い先輩が、ヒーローを忘れてしまった。

「ヒーローですよ」
「え…、俺が、ヒーロー?」
「そうですよ。あなたNEXTなんですから」

先輩が腕を上げて、自分の手をじっと見詰めた。

「そっか、俺が、ヒーロー…。みんなを守れるんだ…」

あぁ、この人は紛れもなく先輩だ。
市民を第一に考える、一番ヒーローらしいヒーロー。

「なぁ、いつ記憶戻るのかな」
「きっとすぐ戻りますよ」
「なんでそう思うの?」

先輩の腕を、両手で握る。
今度は、ちゃんと彼の顔を直視出来た。

「あなたを信じてますから。きっとすぐ戻って来てくれるって、信じてますから」

「お前、強いな」
「これを教えてくれたのはあなたですよ」
「俺が?」
「はい、僕を人間らしくしてくれたのは、あなたですよ」


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