しん、と静まり返った部屋で、虎徹とバーナビーは酒を飲み交わしていた。
すぐ近くの部屋にホァンが寝ているので、お互い声の音量は最小限に控える。
何も家具らしい家具の無い部屋の夜は、本当に暗く静かだった。
こうやって自分が彼の家に来ている間はそれでも静けさが大分マシになっているのだろうが、彼はいつも一人でこの静かな中で過ごしているのだろうか。
なんだか、それはとても寂しいし、悲しい。
「オジサン、飲みすぎじゃないですか?」
3つ目の缶ビールを開けようとすると、隣で相棒の声がする。
「あー…そうだな、明日も赤ちゃんの世話しなきゃなんねぇしな」
「そうですよ、酒臭かったらあの子泣きますよ?」
それは困る、と笑うと釣られて相手も笑う。
先程、ふとした拍子で画面に捜査資料を映し出してしまった時は、彼の知られたくないものを見てしまったようで、どんな反応をされるのかと不安にもなったが、心配するような事態にはならなかった。
それでも、この前までだったらすごく嫌そうな顔をされただろうし、最悪の場合コンビ解消だとも言われかねないような事だと思う。
それなのに何も無かったというのは、彼がそれだけ自分を信じようとしてくれているという事なのだろうか。
「…何を、考えてるんです?」
隣でちまちまと酒を飲むバーナビーに静かに問われる。
自分は今どんな顔をしていたのだろう。
「何か考えてそうな顔してたか?」
「ええ、なんだか嬉しそうな顔してました」
妄想でもしてたんですか?と言われて、似たようなものだと返す。
ふと、そういえばと思い出したことがあった。
「なぁ、」
「?」
「あの、壁に貼ってあるでっかいハイビスカス、あれ綺麗だな」
閑静で家具も何もなく、ただ広いだけの部屋の壁の、ハイビスカスの写真。
部屋と部屋の主には少し不釣合いな、それ。
「あぁ…それ、この前新しく設置したんです」
「ほう?前までは無かったんだ」
「…はい」
少しどもりがちな言い方で、バーナビーは言葉を紡いだ。
「でもこれ季節外れじゃね?」
「季節は、いいんです…、先輩、ハイビスカスの花言葉、知ってます?」
「花言葉?」
「…ええ、」
――あなたを信じます。