言い訳をするならば、今日は事件が多くてお互い疲れていたからだ。

なんとなくの、その場の成り行きでバーナビーは虎徹の家に来て飲んでいた。
少しの量ならアルコールは身体に良い効果をもたらす。2人で雑談を交えつつ飲んでいた。

そんな空気の中、疲れていて何を思ったのか、何を言ったのかなんて詳しくは思い出せないが、何かとてもひょんな事から口喧嘩になってしまった。
どっちが先だかわからないが、お互い能力まで発動させてしまう程に気が高ぶってしまっていた。

「…っ、もう付き合ってられません!帰ります!」
「あーもー帰れよ、じゃあな」

いつもなら、少しの喧嘩なら虎徹が早いうちに折れて仲直りするのだが、今日は虎徹だってかなり疲れていた。そんな包容力を持ち合わせていなかったのた。
大人気無かったかもしれないが、疲れとはそういうものだ。



手早く上着を手に取り、外に出る。
お邪魔しました、とだけ言って虎徹の家を後にした。

もう6月と言えど、夜は肌寒い。
頭も冷やせて調度良いか、なんて考えながら、バーナビーは足早に路を歩いた。

最下層の街のネオンは、夜半を過ぎた今下卑たものしか無い。
品の無い、流石犯罪都市だとしか思えない光。

夜風に打たれながら、先程の出来事を反芻する。
――少し言い過ぎたかもしれない。

こういう時、自分から抜け切らない子供っぽさが憎たらしい。
実際自分よりも何歳も年上な虎徹を相手にして子供っぽさも何も無いと思うのだが、それでも子供になってしまう自分が嫌だった。

少量とはいえ摂取したアルコールが、足早に歩いていたせいで身体中を循環し始めたらしい。
少し足元に浮遊感を覚えだす。

飲んだあと直ぐに走るのは無謀だっただろうか、と少しだけ後悔が頭をよぎった。
こんな、決して人通りの少なくは無い場所で足元がふらついていては目立ってしまう。バーナビーは、人気の少ない路地裏のような道に入った。
それが間違いだった。

石造りの壁に手をつきながらゆっくり歩を進めていると、突然、後ろから呼び掛ける声がした。

「あれ?バーナビーじゃん」

その声に振り返ると、そこには数人の男達が立っていた。

「…誰です?」

誰かと訊いてみたものの、恐らくはHERO TVの視聴者だろうということはわかっていた。仕事の同僚や上司達は自分の事を少し堅苦しい調子で呼ぶが、番組を視聴する市民達は軽々しく自分を呼ぶのだ。

「俺達、あんたのファンなんだ」
「…それは、ありがとうございます」

口数は少なく、あとは皆下卑た含み笑いを湛えながらじりじりと近づいてくる。

――なんだか、気持ち悪い。

「酔ってない?家まで送ってあげようかー?」
その口振りに危険な物を感じると、バーナビーは警戒心を露わにした鋭い目で二人の男を睨み付けた。

「結構です」

そう言って男達に背を向け立ち去ろうとしたバーナビーの身体を、男達は突然羽交い締めにした。

「…!何するんですか、やめて下さい!」

慌ててその手から逃れようとするも、がたいの良い男達数人に腕脚を捕まれ、まともに抵抗が出来ないまま壁に強く押し付けられる。
暴れる度に目が回り、力が抜ける。

「離して、下さい…!」

先程の下らない口論でうっかり能力を使ってしまった事を思い出す。
能力が無ければバーナビーの力なんて一般人より少し優れているか否かの程度で、男数人相手をどうにかできる程の強さは持っていない。

そんな状況の中、突然身体中が脈打つような感覚に襲われ、バーナビーの身体は石畳の床に崩れ落ちた。
それは、危機的状況とアルコール成分からの酔いに他ならなかった。

「ファンサービスしてくれるってよ!」

男達は、勝手な事を言って下品な笑い声をバーナビーの頭の上から浴びせた。

それでも震える足でなんとか立ち上がるが、呆気なく突き飛ばされて地面に押し倒される。
それから先程羽交い締めしていた男に腕を取られ、纏めて頭上に押さえ付けられた。

一人の男がバーナビーの身体に跨がり、その上着を脱がせて黒いシャツを捲り上げる。
その感触にバーナビーは身を震わせると、赤くなっている顔を限界まで背けた。


男の一人が、既に尖っている胸の先端を指先で潰しながら、身体を乱暴に揺らしてバーナビーと密着している部分をなぶった。

「……ぅ、んん…」

バーナビーは抗えない熱に自然と浮かんでくる涙を翠の目に滲ませながら、ズボンを脱がそうとする男を睨み付けた。
男がその目を見返しながら嘲笑する。

「その表情、誘ってるようにしか見えねぇよ」
「……!」

そうして、下着ごと一気にズボンを下ろした男達が、同時に息を呑む。

「……うわ、肌、白っ…」

一人が太股を撫で始める。
バーナビーは身をよじって抵抗するが、その動きは男達の欲を煽る事しか出来なかった。

そうしているうちに、一本の腕が股に伸び、バーナビーのそれを掴む。

「………ぁあっ!」
「…敏感だな…」
「ヒーローがこんなに淫乱で良いのかー?」

男達の揶揄するような笑いに、バーナビーはついに涙を零す。
それさえも今は男達の加虐心を煽った。

バーナビーの股に伸びた無数の手が、熱を持ちはじめたそれを揉みしだく。

「ふ…ぁ、あ、あっ」

出したくなくても独りでに漏れてしまう声を堪えた。
しばらくそんな状態が続き、バーナビーの熱が限界に近づく。芯に集まる欲が、放出を待つ。

「なんかもうイきそうじゃん」
「あぁ…、バーナビーさんそろそろイっときますー?」

からかうような言い方に、バーナビーは必死で首を振る。
それでも、熱を緩く強く揉み扱く手は止まらない。

「ホラ、イきたいんだろ?イっちゃえよ、バーナビー」
「…ぅう、ん……っ!」

バーナビーが今にも達しそうになった瞬間、聞き慣れた声が毅然と路地に響き渡った。

「お前ら何してんだ!」

男達が肩を竦ませてその声の方に振り返ると、虎徹が今まで見たことも無いくらい怖い形相で目を見開き、路地の入口で立っていた。

「…やべ、ずらかるぞ」
バーナビーをそのままに、一目散に逃げていく男達を尻目に、虎徹は石畳に横たわるバーナビーの方に駆け寄る。

「バニー、大丈夫か?」
自力で上半身を起こし、座ったままの体勢で壁に寄り掛かったバーナビーは、優しく触れて来る虎徹の手を振り払う。

「大丈夫、です……触らないで下さい」

虎徹はその態度に構うことなくバーナビーを抱きしめた。

「…、触るなと言っているでしょう…!」
「大丈夫か、怖かったろ」

強く抱きしめられ、優しい声でそう呟く虎徹の表情をバーナビーは見る事は出来ない。
バーナビーは後頭部や背中を大きな手で優しく撫でられながら、虎徹に体重を預けた。

「怖かったろ、もう大丈夫だからな…」
「……っ」

聞き慣れた人の声で囁かれ、身体で抱き留められ、手で撫でられ、バーナビーの張り詰めたものが一気に溶け出した。
前に言われた、悲しかったら悲しいと、怖かったら怖いと言え、という彼らしい言葉を思い出す。

バーナビーは虎徹の背中に腕を回し、震える手で懸命にしがみつく。

「…こわ、かっ……」
「もっと早く来てやれれば良かったな、ごめんな」

ふるふると虎徹の肩に頭を擦り付けるかたちで首を振るバーナビーの表情を虎徹が見る事は出来ないが、泣いているのだろうことはわかった。

「あと、さっきは言い過ぎた。悪かったな」
「…、僕も…言い過ぎ、ました、すいませんでした…」

ぽんぽん、と頭を撫でながらバーナビーと仲直り協定を結んだ虎徹は、しゃがみ込んだまま泣く腕の中の人が落ち着けるまで、ずっと彼の身体を抱きしめていた。


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