服ごと一緒には縮まなかったために、バーナビーは上着を1枚着ただけの状態で、裸足でぺたぺたと歩いていた。
「なぁバニー、歩きにくくねーの?」
「…あるきにくいに決まってるでしょう」
バーナビーが着ているのは、彼がいつも着ている上着だったが、今の状態ではなんと袖が彼のふくらはぎ辺りに付くほどに大きい。
見るからに歩きにくそうだった。
「…あ」
虎徹がふと立ち止まり、唐突に声を出す。
それに反応したバーナビーが虎徹を見上げる。
「?」
「楓が昔着てた服、家にちょっとあるかも」
「…別居しているんでしょう?なぜあるんです」
「いやほら、寂しくなった時用にさ」
「……」
おやばか、と小さく呟いたバーナビーはそのまま視線を落とした。
「なぁ、それじゃ歩きにくいだろ?服取って来るから待ってろよ」
「…いえ僕はべつに、…あ…」
バーナビーの制止の声も間に合わず、虎徹は既に背を向けて歩き出していた。
――ここ(休憩室)で1人で待ってろなんて。誰か来たらどうするんだ。
――こんな姿をもし他の人に見られでもしたら…―
バーナビーは、背を向けて歩く虎徹の方へ走り出した。
いつも歩いているはずの廊下が、とても広く長いものに錯覚する。
「―…っ、オジサン!」
その声に虎徹が振り向いた。
が、その時だった。
「…あっ」
「バニー!」
ぺち、と音がした。
サイズの大きすぎる上着が邪魔をして、バーナビーは廊下で転んでしまったのだ。
「バニー、大丈夫か!?」
慌ててバーナビーの元に駆け付けた虎徹が、その小さな身体を抱き上げる。
「……うぅ、…失態…」
「なーに言ってんだよ、怪我は無かったか?」
「…………大丈夫です、おろして下さい」
その言葉を無にするかのように、虎徹はバーナビーを肩口に抱き上げた状態で歩き出した。
「こっちのが楽だろ?」
「…!お、おろして下さい歩けますから!」
「また転ぶぞ?俺ん家までの我慢だからさぁ」
そう説得され、バーナビーは仕方なく大人しく虎徹の首に腕を回し、肩口に埋まる。
――"抱っこ"って、こういうものなのだろうか。
初めて味わう、本来懐かしむべき感覚をバーナビーは噛み締めた。